お気を付けよ 娘さん
冬の使者に お気を付け
青玉きらめく 甲冑に
なびく外套 象牙色
銀糸の髪は 冷水(しみず)の流れ
いとも気高き 青の騎士
呪縛の笑みに 魅入られたなら
もう 戻ってはこれまいよ
二度と 帰ってこられまい
娘さんよ お気を付け
汚れを知らぬ 娘さん
青の騎士に お気を付け
握りしめた拳は泉を覆う厚い氷。
冷たく、そして、固い。
何者にも触れさせない例え流されても。
私は、売られる。抗えない現実として。
全てに祝福された者として流されていく。
全てに、祝福を与えるために。
見知らぬ土地でどれほどの役に立つだろう。見知った物の数々が。
「これで、足りない物は無いでしょう」
弾む母の声。
数枚の慣れた着衣。使い古した身辺の調度。大切にしてきた小物でさえ。
一時の助けにはなっても、牙城など築けはしない。
「幸せになれる」父が笑みを浮かべ「おまえもそう思うだろう?」
はい。私も、そう思います……
そう幸せになれる、皆が。『皆』が。
代価は安いほど良いのだから。
私、ひとり。
強い風と共に、一人。
現れた迎えの騎士。
「宜しく頼む、無事に娘を貴領まで」
「心得ました、無事に必ず我が領へ」
青。
その姿、全てが青。
白く端麗な顔。銀に垂れる髪。象牙色の外套。艶光る黒馬でさえも。
一瞬。
全てが青として目に刻み込まれた。
「お連れしましょう、美しき御婦人」
瞳だけはその色のまま。
熱のない双眸。艶やかに笑み、深く、深く。
「御安心下さい。我が領主は、優しい御方」
私の心に楔を打った、深く、深く。
声は上質な絹糸のなめらかさ。言葉は、類い稀に織り上げられた綴織り。身ごなしから響き渡るのは天の楽奏。
馬上の姿も雄々しき騎士。知れず追う、目で耳で。
轡を並べて進むうち、道、草原、空、頬撫でる風も何もかも。
消え去った。ただ、その騎士だけ。
私の目に映るもの。
整った顔が形作る。
この上もなく優雅な微笑。手を差し伸べ。
促され身を寄せる、固い甲冑。貴方の瞳と同じ石が輝く。銀細工の髪は氷のよう。指先で触れると意識まで痺れる。
冷たい手で私に触れその笑みで私を繋ぐ。
「貴女を誰にも渡したくない」
ああどうして。
本当は嫁きたくないのです。
でもどうして。言葉が。
このまま、ずっと……
ならば そうしよう
狂おしいほどに抱きしめて、貴方は。
三度、覆った。私の唇を。
行こう 愛しき娘
美しく 清い娘
そして 稀有な娘
紡がれる言葉。流れる旋律。甘美な呪縛。
初めての瞬間と同じ。
貴方が青く、青く輝く。
そう 君が望むなら
地の果てまでも 見られよう
全てを捨てて 行けるかい
わたしと共に 行けるかい
返事は要らない。頷きでさえも。
囚われた心は。
放さないよ いつまでも
青く、輝く……。
馬を駆り野を逍遙し、騎士がうたう娘がうたう白雪の小唄。
娘は真白き輝き宿し、ふわりふわりと光の子、散らしながらに夢を見る。
雪が舞う舞う一番雪が、はらりはらりと風に舞う。
娘の身体が消えるまで。
娘の身体が 消えるまで
お気を付けよ 娘さん
初雪はこぶ 冬の使者
青の騎士に お気を付け
そして今年も 無垢な雪
消えていく 無垢な娘
もどらない ゆきのかけら
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