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これ以上ないくらいの晴れ渡った空の下で,タツヤは待っていた。
学校にもようやくなれて、来年から高校二年生。短い春休みも、もうすぐ終わりに近づきつつある。
少し肌寒い風が気に障ったが、半咲きの桜を見てすぐに和んだ。辺りを見まわしてみると、タツヤのほかにもニ、三人が駅前のベンチに座っている。きっと、待ち合わせをしているのだろう。
これでもう十分間。タツヤは何回も足を組み替え、視線を腕時計がつけてある右手と駅の時計とで反復運動させている。しかし彼の顔にいら立ちの色は見うけられなかった。どちらかといえば、その待つという行為を喜んでいるように見える表情だ。
「まったぁ?」
と、唐突にタツヤの頭上からにゅっと顔が出現して、長くさらりとした黒髪が彼の肩にかかった。そうやって現れることを事前から知っていたかのように、タツヤはわざとらしく驚いて見せてから、ベンチから腰をあげる。
彼女は、タツヤの幼馴染みのレイコ。白いワイシャツの上に少し濃いめの赤いワンピースを着こんでいる。
タツヤがまったく驚かず、逆にほほ笑んでいるのを見てレイコは、
「なによ、なんかついてるの?」
と、あるはずもない異物を探して顔に両手にあてた。
何でもないよ、と言おうとしてタツヤはふと彼女の目の下にできた濃い隈に気づいて言いよどんだ。
「ん〜、なんにもついてないじゃない。もしかして私の顔が笑えるって言うの!?」
「そ、そんなことないよ」
あたふたと慌てるタツヤを見て、本当に何もついていないのだ、と判断したのだろうか。レイコはさっさと歩き出した。
「さあ、行きましょう! もうすぐ電車も来るわ!」
「まってくれって」
うめくタツヤを無視して、遅れたことがさも当然であるかのようにズンズンと歩いていく。
「そうだ、遅れたけど。レイコ、おはよう」
「おはよう!」
怒った声でレイコは返事をよこした。なんだか妙に理不尽な気がしてタツヤは少し、口答えしてみることにした。
「服まで同じにするんならさ。二度目なんだから、早く来ようとか思わないわけ?」
小走りで追いついたタツヤは、歩幅を緩めて、ほほ笑みながら悪態をついてみる。
「いいじゃない。どうせ私は朝が弱いですよ〜。それとも、制服の方がよかった? あんたそんな趣味……」
「いや、いいと思うよその服。それにそんな趣味はない……」
「なによ! そもそもあんたがやり直したいって言ったんじゃない!」
「う、うん」
いじめてやろうかと思ったら、これだ。すぐにやり返されてしまう。
遅れて来たというのにこんなことを言われれば、普通すぐさま大喧嘩に発展しそうなものだが、タツヤはそうずけずけ言うレイコの癖を熟知している。
知っているからいちいち気にしたりはしない。レイコの口が悪いのはただ、恥ずかしさの裏返しなのだ。彼女の本当の気持ちもわかっている。
「そうだね、きちんとやんないとね」
ムフーとご立腹のレイコにタツヤそう言って、あふれ出してきた涙を振り払った。情けないと自分を叱咤しながらタツヤは地を踏みしめた。
もう行き先は決まっている。あの時と同じ、行き先は『遊園地』。
遊園地前駅の切符を買って、丁度来た電車に乗りこんだ。少し汚れた床が彼らのクツに踏まれて、きゅっきゅっと音を立てる。
二人は前向きになっていた椅子を反対向きになおしてから、向き合って座った。
窓の外を見ると、景色が川のように流れていた。たった一分もしない内にその景色は、実際に歩いたことのないような場所に変わっていく。
その景色があまりにもあの時に似ていて、タツヤは背筋が寒くなるのを感じた。きょろきょろと、それでこそ生きるか死ぬかの重大問題であるかのようにタツヤは慌ててレイコの姿を探した。
レイコはすぐに見つかった。
なにしろ目の前に座っているのだ。気づかない方が難しい。彼女はじっと外を見ていた。視線を少し動かせばそこにいるのに……。それなのに安心することはできそうにもなかった。
タツヤは伸ばせば握れるレイコの手に自分の手を出そうとは考えなかった。そうやって肌と肌を触れあわすことが一番安心するはずなのに、彼は窓の桟におかれたレイコの小さな白い手を見ているばかりだった。
これから彼らが向かうのは本当にさびれた遊園地。バブルの時に建てられたそれには、今では『幽霊がでる』という噂まで流れている。なんの意外性もないありふれたアトラクションが並べられ、辺り障りのないマスコットが闊歩しているのだ。
そんな遊園地。それでもトウキョウなんかとは比べ物にならない二人の小さな町で、デートスポットといえば真っ先に遊園地があげられた。だから自然に彼らも遊園地に向かったのだ。
「遊園地まえ〜、遊園地まえ〜です。お降りの方は……」
少しかすれたような車掌の声。タツヤは急いでレイコの手から目をそらした。見ていたことがばれるのは、嫌だった。
「おりるよ〜、タツヤ」
そんなことは露知らずレイコは弾む足取りで降りていく。
「おう」
言って、タツヤはその後ろを眩しそうに目を細めながら駅に降り立った。
遊園地はすぐそこだ。二人は遊園地に近づいていった。
遊園地に入り、一日パスポートを買って観覧車に乗り終わった頃、時計の長針と短針がてっぺんで重なった。
遊園地には小さい、田舎だといっても、人がいた。今日が休日だからだろうか、暖かい日差しの下で笑顔の家族連れやカップルが浮かれ歩いている。
タツヤは歩きながら、何を食べようかと考えていた。
「たしかあの時はハンバーガー食べたよなぁ」
レイコは前と同じ服を着てきた。彼女はきっと同じシナリオを望んでいるのだろう、タツヤ自身も前回と同じことをする方が望みだった。
だが、そう言ったタツヤの目の前には、ピンク色のハンカチに包まれた小さな箱が揺れていた。
「じゃーん! 私の手づくりよ! 感謝しなさい!」
「う、うおう」
これは脚本と違う。驚かされてしまった。タツヤは恨むようにレイコを見た。
「同じにするんじゃなかったのか? あの時は作ってなかったじゃないか」
「い、いいのよ、別に。少しくらい、さ」
ズズイっと近寄ってきて、
「それとも私の作った物なんか食べれないって言うのかしら?」
妙に迫力のある声で逆切れしてくる。こうなってしまっては誰も止められない。
「……喜んで食べさせていただきます」
どこか弁当を広げるのに丁度よい場所はないかと探した結果、二人はレンガで作られた公園の芝生の上に腰を落ち着けた。
レイコは昔から料理が下手だった。幼馴染みだったせいでよく毒見をさせられたものだ。にがにがしい記憶は、タツヤの脳に焼き付いて離れない。
だが、料理が下手でも弁当を自分のために作ってきてくれたのは、嬉しかった。ただ朝から振りまわされている仕返しにと、わざと嫌そうなふりをしてレイコをからかっているだけだ。
そんなことをしながら、ふと疑問に思った。これもデートに入るんだろうか? 変なことはしないでね。死に神はそう忠告していた。あの時と少しだが変わる。
「あんた。本当に嫌なの? 無理強いはしないわよ?」
「い、いや。少し考えごとしてただけだ。うん、食べるよ」
心配そうなレイコを見てタツヤの疑問はすぐにどこかへと胡散していった。そうだ、本当に少しくらいなら、かまわない。
「なによ、嫌そうねぇ。もっと喜びなさい!」
「わぁい、やった!」
「む、白々しいわね〜」
ま、止められるようなもんじゃないけどな。そう毒づきながらタツヤは箸をとった。
予想に反して弁当はうまかった。レイコのうすい隈のワケが少しだけわかった。
それからの午後、二人はあの時と変わっていた。というかもう全然違った。
一度昼食の時に前回とは変わってしまったんだから別にいいでしょ、とレイコが譲らなかったのだ。レイコの我が侭イコール、タツヤの摂理。タツヤもその辺の約束が曖昧な約束だったのでそこまで抗おうとはしなかった。
『もう一度デートをする』。
約束はシンプルだ。ただレイコといるとタツヤの摂理は現在進行形で変わっていってしまう。そのことを忘れて、一度でも真面目にあの時の通りにしようと思っていたタツヤは、さすがに飽きれを隠せなかった。
べつだん遊園地が好きなわけではないが、タツヤは楽しかった。レイコといるだけでタツヤは楽しくなる。
遊びながら、タツヤは気づいた。ここは遊ぶだけでなく、存在を確認したり、かみ締めたり、気持ちの起爆剤にしたり、キッカケにしたりする。そんな場所なのだと。
「次はー、次はー」
パンフレットに赤いペンでバツをつけながら歩くレイコに歩調を合わせながら、彼女の持つそれに目を落としてみた。紙面はレイコの影で暗くなっていて見にくかった。
パンフレットの項目はそのほとんどが赤くバツをうたれていた。まるでレイコのテストだな。そうちゃかそうとしてタツヤは止めた。
あと、三つ。
レイコのパンフレットを持つ指が小さく震えていた。
この小さなテーマーパークは都心のそれとは違い、一日あればその全てを乗り潰すことはさして難しくない。
――あの時も。あの時もそうだった。
残り三つのアトラクションはコーヒーカップとトイレ、それからジェットコースターと表記されている。一心にパンフレットに見入るレイコの手からペンを奪うとトイレにさっとバツ印をつけた。
「あ」
「トイレもバツでしょ? レイコ、どうしたの」
「……うん」
そのレイコに昼間の元気は見る影もない。どうやらカラ元気もここまでだ、とタツヤは直感した。彼女はそこまで勇敢じゃない。
もう、時間がなくなりそうだった。空に朱が混じってからいくらか経っている。乗り遅れるのはゴメンだ。そう決めてタツヤは素早くコーヒーカップにもバツ印を追加した。
「あ」
「これも、残念だけどダメだ。もう時間がない」
「で、でも」
レイコの我が侭イコールタツヤの摂理。
「ダメ。これはダメだ」
それでも、世界の道理には勝てやしない。
「私、乗りたくないよジェットコースター」
泣きそうになるレイコにタツヤは安心させるように穏やかに言った。
「でも時間がない。大丈夫、俺はいるよ」
レイコはわずかに光を湛えた目でタツヤを見てから、なにか雑念を払うかのように頭をぶんぶんとふってから頷いた。
「そうだね。最後までやり通さないと」
残るアトラクションはあと一つ。
はたから見ればくだらないその劇は、それでも無情に幕を閉じ始めた。
もう閉園も間近だし、いくら春といっても風が少し肌寒い。辺りにはあまり人が見うけられなくなっていた。なにより皆、安心したのだろう。自分と相手を確認してめぼしいアトラクションに乗ればもう帰っても差し支えない。確認し安心することが目的だからだ。そうタツヤは思う。
よって、ほとんどの人は遅くまでココに居る必要がない。また不安になったら来ればいいのだ。
しかし二人には目的がある。まだ帰るわけにはいかなかった。
夕日に照らされて高くて長い影を落としている、この遊園地の数少ない人気アトラクション。二人は最後のジェットコースターの発進になんとか滑り込んだ。
二人は息を切らせながらパスポートを見せて、二席六列編成のジェットコースターの最前列に二人並んで乗った。
「よかった、間に合って」
タツヤが呟いた。
「なにが?」
そう答えたレイコの声は弱々しかった。ああ、泣いてるのか。タツヤは嬉しさでにやつく顔のまま、軽く拳を丸めて彼女の頭を小突いた。
「まだまだ! 閉園してないってば!」
と、声が聞こえた。
「すみませーん!」
幼い声だ。気づいた係員が今にも発車しようとしていたジェットコースターを止めて、歩いていった。姿を見せたのは、おそらくジェットコースターに乗れるギリギリの身長の女の子。その子は激しく肩で息をしながら
「ちょっとまってね」
と、泣きそうな声で言った。
係員がジェットコースターの操舵使に待つように目線を送る。
少女に遅れて少女の親らしき大人が二人、早足で追いついてきた。泣きそうになっている少女を確認すると慌てて駆け寄ってくる。事情を聞いたのだろうか、その後大人二人は係員に頭を下げて、なにか会話を始めた。
ふと、タツヤは違和感を覚えた。
――違う、これは前と違う。
そうか…… 予定は変わっていた。あの時と今日は昼間のあの時から、レイコの弁当を食べた時から別物になっている。
ひやりと汗が背中を流れた。まるで風邪をひいた時のような底からの震えが瞬時にして彼を支配する。さっき走ったせいではない、恐怖から来る別物の汗だった。
――まずい。確実に違う。
慌てて後ろを振りかえる。よりにもよって彼の目に映るのは、早く始まらないかと待ち望む乗客の顔、顔、顔。後ろの座席は完全にうまっていた。
「とにかく、これで最後ですので、はい。残る席は一つだけですが、乗るのはお嬢さん一人だけでいいですか?」
「はい、すみません。この子、なかなか決めたこと曲げようとしなくて……」
「じゃあ、早くお願いしますね」
係員はもういいぞ、と操舵使に手をふってから、嬉しそうな少女の背を押してタツヤに近づいていった。
まずい。それはまずい。
タツヤは懲りずにまた後ろを振りかえった。彼の目にはやはりシートと同じ数の十対の眼しか映らない。係員の目を見る。その眼に曇りはない。
「あの」
少女がタツヤのシートに入ろうとした瞬間。レイコが凄みのある声で少女を諌めた。
「私。一人がいいんですけど」
「そうは申しましても……。お客様、ダメでしょうか?」
トゲだらけのレイコの声に、係員が私の立場がないじゃないですか、という感じで目線をまた泣きそうな、小さな頃のレイコにそっくりの暴君と、その両親に泳がす。
レイコも負けじと視線を確認するように頭ごと動かす。係員に、少女の両親に、それから少女を睨んで、最後に係員を睥睨してぴしゃりと言い放った。
「嫌です」
「……」
係員はレイコに押されて視線を落とし、なんとか少女をなだめようと始めた。
「お客様、すみませんでした」
「……はい」
いかにも腹立たしげな、こもった声でそちらを見ずにレイコは答えた。
係員とついに泣き出してしまった少女がホームから離れていく。それと同時にピリリリリッとサイレンが高鳴って、ジェットコースターは電車みたいにガクンッと一度後ろに後ずさってから発進した。
レイコはにがにがしい顔つきで、ただ下を見つめその振動を受けとめていた。
ガコン、ガコン、と一つずつ。階段をのぼるようにゆっくりと上に向かっていく。
典型的なジェットコースターのこれは、一度上に上がってから一気に下り一回転宙返りをして徐行し、それからまた同じ動作をしてホームへと戻るコースをとっている。
ガコン、ガコン……。
どんどん小さくなっていく売店や木を見て、タツヤは自分が鳥になった気がした。
「レイコごめんね」
「……うん」
「いつから気づいてた?」
「初めからね、なんとなく。電車に乗る時とかもやっぱり変だったし」
「あーあ、隠してたのに……」
気づかれたくなかった。余計な気を遣わせたくなかったのだ。
うって変わった明るい声でレイコは続けた。
「嫌な役、やっちゃった。これで私があの女の子の絵日記でズタズタにされるのは確実ね」
タツヤは唇をかみ締めた。
「ごめん、レイコにばかりつらい目を……」
「ちがう、ちがう。そこ、笑うとこでしょう?」
やっぱり声は震えていた。
「本当にごめん」
「……私、ジェットコースターなんて、乗りたくなかった」
ガコン!
一段と強い音がして頂上にのぼり詰めた。下にいた時よりも段違いに冷たい風が頬に当たったがタツヤの体の中はグツグツと煮詰まっていた。自分が情けなかった。
「ごめん、あと少し。今度は大丈夫だから。俺は閉園までいる。最後までいられる」
唐突に、ジェットコースターが動き出した。
風を切り、空を切り、ゴウゴウと進む。
そして帰ってきたジェットコ−スターの最前列。レイコの隣の席はあの時と同じように椅子ごと落ちてなくなっていた。
もし誰か乗っていたら死んでいた。そう言った係員の顔はひきつっていた。
気の早い太陽はもう沈もうとしている。
二人は同じことを胸中で願っていた。太陽よ、ずっと昇っていてくれ、そうすれば遊園地は閉園しないのだから。
揺らぐような朱色の中。二人はレンガの公園のベンチに座っていた。
「レイコごめんな、二度も嫌な思いさせて。俺また落ちちゃって。あれは何度体験してもなれそうにないよ」
「タツヤ、やっぱり消えるの?」
その問いかけに彼は答えることができなかった。しかしその沈黙は暗に肯定を意味している。
「ごめん」
タツヤは手をレイコの肩に重ねた。透き通る彼の手は、放っておけばレイコを突き抜けてしまう。
「なにがしたかったのよ、私に嫌な思いをもう一度させるため? それともただの気まぐれだったの? なんなのよ、私、二回も無駄な日曜日過ごしちゃったじゃない。もうすぐ学年始めの試験も近いのに!」
「ただ、きちんとさ、約束を果たしたかったんだ。デートするっていう。それはもう叶えられたけどね」
「あっそ」
頭を膝にうめて両腕で押さえ込みながらレイコは声を荒げた。
「そんなけなの? もういい。いっちゃえ、あんたなんか知らない!」
「それからもう一つ」
ポツリとタツヤが言った。
「一つ、言ってなかったんだ。レイコに言わなきゃいけないことがある。俺はそのために今日一日、やり直したんだ」
タツヤはレイコ以外には見えない両手で、大切な宝物を持つかのように彼女の身体を覆った。
「ごめん。俺は君が好きだった」
口を開こうとしてレイコは気づいた。
もうタツヤは彼女にさえ見えなくなっている。
――今何時だろう。
確かめるまでもない。辺りには閉園しますのアナウンスが流れ始めていた。そんなことくらい解かっているのに、レイコは腕時計を見た。
劇は終わっていた。
目をつぶってレイコは言った。――私も、好きだった、と。
再びレイコが目を開けるとそこはジェットコースターの事故のせいで営業を中断している遊園地のベンチの上だった。
やっぱり、と呟いて、レイコは立ちあがり、パンパンと景気づけるように尻をはたいてから歩き始めた。
レイコは泣き止んだ。
幕が閉じて、くだらない小さな劇が終わった。
タツヤは一週間前、レイコとのデート中にジェットコースターから落ちて死んだ。彼の怨念は強く。悲しい物だった。
一人の死に神がいた。死に神はそうやって思いを残して死んでいった魂を穏便に成仏させるために、ほかの死に神と違い、ただ現世から離れようとしない魂を切り離すのではなく彼らの願いを一つだけ叶え、そのかわりに成仏してくれるよう取引をしていた。
願いの制限は厳しい。叶えられる望みは完全な幻想でない限り、相手の同意が必要となる。さらに望んだものの姿は同意した物の目にしか映らない。
そして与えられる制限時間はたった一日のみ。
死に神にとって無理やり魂を狩ることはそう難儀なことではない。だが無理やり狩ろうとすると激しく抵抗する霊が、ただそれだけの、そんな条件下での願いを叶えるだけで抵抗することもなく進んで成仏する様は、死に神の興味をそそった。
小さな舞台を終えて、タツヤは逝けた。
小さな舞台を終えて、レイコは泣き止んだ。
くだらない劇がまた死に神を呼んでいる。
死に神はいつまでも考えつづけるだろう。何故人間はこの程度の望みで皆満足してくれるのだろうかと。それがわかるまで死に神はこの営業スタイルを変えないに違いない。
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