小説を記したら、やはり誰かに見てもらわなければつまらない。
 まず読むのは自分だ。それで「こんな出来ではダメだ」と思う。
 次に読んでもらうのが他人だ。それで色々意見を言われる。軽い妬みで低い評価を言われるかもしれないし、専門家でもない限り忠告が適切とは限らない。実際他人の忠告よりノウハウ本のほうが10倍役に立つなんてよくある話だ。
 それにただでさえ小説ってやつはエゴが出るジャンルである。それで意見の言い合いをして人間関係までうまくいかせようと考えたらこれは大変だ。
 なので結局僕が思うのは「投稿する」ということである。少なくとも専門家、という言い方はおかしいのか? いや、プロフェッショナルの日本語訳がそれだったはずだから間違ってはいない。ただ単に使い慣れていないだけだ。
 そういうわけでもう僕の小説は始まっている。

       ◆◆◆◆◆◆

柏崎良子の場合(10月30日)

 私、柏崎良子は平凡な女子高生をやっている。時々は授業をさぼってカラオケに行ったりはするが、留年になっちゃうようなことはないようにしている。「日々は楽しいけど何か物足りない」
 それが私が今一番嫌っている言葉だ。日々はただ退屈なだけ。容姿も十人並み。
 そう、カラオケに行くっていっても大抵、
「その歌なに?」
「もっと盛り上がるような歌歌ってよ、モー娘。とかさ」
 とか言われる。
 そういう時はいつも、
「いーの」
 と言って誤魔化してしまう。
 私のカラオケの腕前(っていうの?)はそこそこみたいなので、まあそれで済む、と思う。
 だから日々は退屈ばかりだけど、でも時々楽しい。
 友達はいる。でも本当に友達なのかな、と思うこともある。
 ひょっとしたら何か陰口とか言われているんじゃないか、とか。
 そして今日も退屈に授業を受けている。物理がどうとか。ああ、なんで理系なんて選んじゃったんだろう。
 退屈だな……。
 ……………………
 寝てた。
 チャイムが鳴り、友達の洋子がクラスメイトに話しかけている。誰だったっけ、確か、中村さんとかいったかな。
 私は友達以外とあんまり話さない。あまり他人に関心がない。
 洋子の周りで笑い声が起こった。
 その時は何も思ってなかったけど、それからが私の、幾つもの体験が重みを増すまでの最後の瞬間。

 受験。
 将来。
 彼氏。
 
 その日の夕方、モスで洋子と話していたとき、ついでみたいに彼女が言った。
「だよね、私あいつ嫌い。あ、でも良子もさ、もっと人と話しなよ。クラスにも結構面白い人いるよ」
「人脈ってやつ?」
「そうそう、人脈ってやつよ。そっからギブアンドテイクやら信頼関係やらが生まれるわけよ」
「いいよ、私は」
 洋子は煙草を取り出して(駅で私服に着替えていた。それに大人っぽい容姿なのだ。……私は制服なんだが)「ふーっ」と一息吐いた。
「…………洋子いるしさ」
「私だっていついなくなるか分かんないよ」
「どういうこと?」
「どういう」
「転校するの?」
「ちょ、ちょっと、そうじゃなくてさ、なんつーの」
「受験」
 煙草を人差し指でピンとすばやく弾いて、
「違う違う。人なんてすぐいなくなっちゃうかもしれないんだよ……ってこと」
 私は合点がいった気がした。
「え? まあねえ、人なんて脆いもん。すぐ死んじゃうよね。事故でも何でも」
 そしたら、洋子がちょっとむっとした顔をした。
「良子さ、そういうこと平気で言うのってどうかと思うよ」
 真面目な表情。ちょっと目が怖い。私は紅茶のカップから口を離した。
「…………」
「身近な人が死ぬって、辛いよ、特に、分かり合えずにっつーか、未練残したまま死なれると。あー」
 訳わかんなくなってきた、と言って洋子は頭をかいた。ずっと話役だったので灰が長くなった煙草を弾いて、深く紫煙を吸い込む。
「……良く分かんない」
 私はそう答えた。
 そして関係ないことを言った。
「煙草、似合わないよ」
「うるへ」
 煙草を咥えたままで洋子が言う。
「人から見れば私なんて優等生じゃん? 人は見かけによらないってのを目に見える形で示したいのさ。こりゃ復讐よ、復讐」
「…………なんか悲しいよ」
「身近な人が死んだらさ、もっと悲しいんだよ」
 私はドキッとして、シャツの袖に隠れている手首に触れた。
「…………誰か、死んだんだ?」
「うん、友達だった」
「可哀想だね」
「うん……だけど、その子良子のこと嫌ってたよ」
「え」
「自立しなよ、クラスで一人だけでいるアンタ見てるとほっとけなくてつい構っちゃうけどさ、私だって色々な付き合いあるし、もっと周りに溶け込んでよ。ただでさえアンタといて白い目で見られるのにさ」
「…………何? 何だって?」
 洋子はすごい形相で壁のほうを向いてる。
「何よ、なら付き合わなくていいよ。……その、私が嫌いだった子、そんなの他にもいるんでしょ? いいよ、もう!」
「待って! 帰らないで!!」
 泣きそうな顔の洋子。初めて見た。
「話すから、聞いて欲しいの」

       ◆◆◆◆◆◆

谷崎洋子の場合(10月15日)

「柏崎良子ってさ、ウザいよね」
 唐突に美和にそう言われた。
「うん、ウザイ」
 笑いながら私は答えた。
「なんで付き合ってんの?」
「えー、なんか寂しそうにしてんじゃん?」
「深い付き合いがしたいわけ?」
「ってんじゃなくてー、何かほっとけない。ろくな将来ないよ、良子」
「あのままじゃ?」
「あのままじゃ」
 そう言って私たちはまた笑った。
 私たちは受験のためという事で一応美術部に所属している。「作品を描け」ってうるさく言う顧問じゃないし、先輩たちは皆個人主義って感じでこちらに干渉してこない。だからこういう空き時間。正確には、
「生理痛です」
 なんて理由をつけて体育を休んでここをダベり場にしている。
 私は調子付いて言った。
「あの子結局甘えてるんだよね。一人で教室にいてさ、誰か構ってくれってのがミエミエ。私だって付き合ってみて、そりゃ悪い子じゃないけどやっぱイライラするわ」
「あー、だよね。…………ねえ、今日クラブ行こうよ。兄貴がパス持ってて、18歳未満でも入れるんだ! 私らでも大人っぽい格好してりゃバレないし」
 クラブ、ちょっと心が動いた。
「あ、でも今日良子とカラオケ行く予定だから」
「……また良子? 嫌いなんじゃないの?」
「……嫌い、だけど」
「じゃ、いい。私一人だけで行くから」
「え? でも危なくないの?」
 美和は荷物をまとめると、
「教室戻るわ」
 って言って私の顔を見ずに行ってしまった。

「私のことアンタなんかには分からない」
 
 そう、言われた気がした。

 そして美和はクラブで知り合った男にクスリを渡され、それをやって、畜生、挙句に死んで、いや、殺されてしまったようなものだ。
 私が彼女に付いて行けばこんなこと…………。

       ◆◆◆◆◆◆
 
再び、バーガーショップ店内

 洋子が少し赤い目をして言う。
「だから、簡単に人は死んじゃうかもしれないんだよ。でも残された人には単純な事じゃないんだよ」
「…………でも、同情はできないよ」
「私に?」
「洋子にも、だけどその友達の人にも。ねえ、友達って何? 私にだって昔色々あったんだから、中学時代さんざん苛められて、どうしようもなくて、だから人と関わるのやめようって、そう思ったんだよ!! だから!!」
 もう歯止めが利かない。
「だから、こういうこともしてる」
 洋子が、びっくりして見ていた。
 今思う。
 私たちは相手の表面ばっかり見て、心の奥のことなんかこれっぽっちも話さなかった。
 日々はずっと、義務教育からの慣れでずっと過ぎていくけど、いつの間にかたまっていってしまうものが、ある……。
 人を信じたくて、救われたくて、でも相手に負担をかけたくなくて、それが逆に相手の負担になって。
「ごめんね、私、良子のこと勘違いしてた」
「うん、私も、洋子になんか見下されているような感じ、嫌だった」
「あのね、私良子と家族の前でしか煙草吸わないんだよ」
「…………そうなんだ」
「死なないでね。もう、絶対」
「それは……」
 保障できない。私たちの心はあまりに不安定で、いつもぐらぐら揺れていて……。
「もっと、話そう?」
 返事にはなっていなかった。洋子もちょっと不満そうだったけど、笑って言ってくれた。
「いろいろと、ね」
「うん、いろいろ」
 そして私たちは、バスの時間がなくなるまでずっと話し続けた。

       ◆◆◆◆◆◆

 この短編小説は僕自身の経験から考えていったものだ。プロットも何も立てなかったのでどれほどの長さのものを書けるかも正直わからなかった。この場を借りて数少ない僕の友人に感謝を捧げる。僕にとって文章を書くという行為はコミュニケーションであり、例え雑誌掲載のようなもので「あとがき」がないものでもそれに当たるものは書きたかった。何故ならそれも作品の一部だと思うからだ。



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