「早く早く」
そこは僕だけの王国だった。とても狭くて少し薄暗い部屋だったが、僕にとっては他の世界とは隔絶された僕だけの王国だった。
今日も、僕はその部屋に入った。本当は、いつも、いつまでもここにいたいのだが、いろいろ問題があった。ここは、寝るには狭過ぎたし、なにより、外から敵がやってきて僕がずっとここにいようとするのを邪魔するのだ。
僕がその部屋に入って少し経った後、どたどたと駆けて来る足音が聞こえた。
どうやら、また敵がやってきたらしい。
コンコンとドアをノックしてきた。ずいぶん礼儀正しい敵だ。
「もしもし、誰かいるの?」
「うん」
「あれ、もしかして……修ちゃん?」
敵は、なんとおねいちゃんだった。おねいちゃんが、僕をこの王国から連れ出しに来たらしい。
「ねえ、修ちゃん。ここから出てくれないかな。おねいちゃん、急ぎの用事があるんだけど…」
敵は、こんなことを言って僕をここから追い出そうとする。
「なんで?ここは僕の王国だよ。ここでは僕が法律なんだ。どんな陽気な音楽で、連れ出そうとしたってダメだよ。僕はネズミじゃないんだ。どんな音楽のビートだって、僕をここから出すことはできないんだから」
「なにわけのわかんないこと言ってるの!修ちゃん。また変なお話に感化されたのね。ねえ、修ちゃん。おねいちゃん、本当に急いでるんだって。おねがい、出てきて」
「だからだめだよ。何度言ったら分かるの?ここは僕の王国で、僕はここの王様なんだから、出る必要なんか無いんだよ」
「また訳の変わらないこと言って。あ……まずい、時間。ねえ、修ちゃん。早く早く」
「もう!うるさいなあ。どんなにお願いされたって、ダメなものはダーメ。わがままばかり言ってると、ママに怒られちゃうよ」
この一言で、敵は痺れを切らしたようで、どんどんどんとドアを叩いてきた。もしかしたら、ドアを壊して僕の王国に侵入するつもりなのかもしれない。
「こら!修ちゃん!おねいちゃん、怒るわよ!早くここから出なさい!」
「怒るんだったら怒ってもいいよ。でも、そんなこと言うと絶対出ないからね」
敵はこう言われるとけっこう黙るものだと、以前の経験で知っていた。おねいちゃんも黙ってしまった。そして、少し経つとどこかへ行ってしまった。
「ぜったい出ないもん」
と小さな声でつぶやいた。僕の決意だった。
敵が去ってのんびりしていると、また足音が聞こえてきた。今度は、小さな足音だった。
ガチャ。
なんと、敵はどうやってかドアの鍵を開けてしまった。
「ほら、修ちゃん。そんなところでおなか出してるとカゼ引くわよ。早く出て」
おねいちゃんは、僕を追い出すと、部屋に入ってドアを閉めた。
「うわーん」
僕は、部屋から追い出されるのが悔しくて泣いてしまった。ちょうど買い物から帰ってきたママに抱きついた。
「ママ、おねい……ちゃんが…」
僕は、鼻水を出しながらママに訴えようとした。
「あらあら。修ちゃん、トイレから追い出されちゃったの。だめよ、早くそういうのは卒業しなきゃ」
「トイレじゃないもん!僕の王国だもん!」
そう言うと、ママはハイハイと僕の頭をなでた。僕は、ぶーと頬を膨らませた。
「ほら、おねいちゃんに謝って」
ママに言われて、僕はいやいやおねいちゃんに謝った。
「ごめんなさい」
僕が謝るとおねいちゃんがいきなり出てきた。
「あ、お母さん。じゃ、会社に行ってきます」
「はい、いってらっしゃい。修ちゃんのこと許してあげてね」
「あー、はいはい」
おねいちゃんはそう言うと駆け足で出ていった。
これで王国に平穏が取り戻されたと思ってトイレに入ろうとした時、ママが、
「こーら。トイレに入っちゃダーメ。ママと遊びましょ」
と言って僕を引っ張った。僕は、また来るねと王国のドアに言った。
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