1 篠原千恵『天は赤い河のほとり』☆☆☆ 小学館 フラワーコミックス 既刊22巻 古代アドヴェンチャー
現代から魔術で連れ去られた少女がヒッタイト帝国の皇子の恋人になって大冒険しちゃうというお話なのだが、波乱万丈の展開で読ませる。とにかく危機また危機、一瞬たりとも立ち止まらないストーリーがお見事。現代人が古代の社会にそんな簡単に適応できるのかとか、古代人のメンタリティが現代人とまるで同じだぞとか、いくらでもつっこみはできるのだけれど、いちいちそういう無粋なケチをつけながら読むのはBADな読み方。悠久の時の彼方で大帝国の中枢人物となり、愛を知り、哀しみを知りながら成長していく少女の冒険に一喜一憂しつつ物語に没頭するのが最も正しい読み方だろう。篠原千絵といえばこれまではホラー・サスペンスで名をなした作家だが、新境地を拓いたこの作品でも文句なしの成功をとげていると云える。いかにも女の子受けしそうな甘いエロティシズムも以前のままで、なるほどこれは人気がでるわけだ、と納得の一作なのだった。
2 久実沙織『ドラゴンファームはいつもにぎやか』☆☆☆★ プランニングハウス ファンタジーの森 シリーズ全3篇5巻 異世界ファンタジー
久実沙織は最高傑作『青狼王のくちづけ』で日本幻想小説の頂点を極めた作家だが、この『ドラゴンファームはいつもにぎやか』はその彼女が巧みな小説技術の真髄を見せつけた佳作である。題名の通りドラゴンを飼っている牧場のお話なのだけれど、その牧場のリアリティが半端じゃない。実際に異世界のデュレント牧場まで見学に行き、取材してきたことをそのまま書いています、と云ってもうそ臭くないくらいの現実性がある。一見して地味にみえるストーリーも、実はきちんとツボを押さえていて、ファンタジーが好きな人ならニヤリとできること間違いなしの出来。父と子の間の葛藤、そして少年の成長が、すがすがしい筆致で丁寧に描き抜かれている。これぞプロの仕事というものだな。それにしてもこの巻のディーディーは可愛いね。久実さんの小説にはこういう元気な女の子がしばしば出てくるんだけど(『MOTHER』のヒロインとか)、好きなんだろうなぁ。
3 皇なつき『黄土の旗幟のもと』☆☆☆★ 角川書店 ASUKAコミックスDX 全1巻 歴史コミック
中国は明の時代の終わり、動乱の世のお話である。明末清初を描いた作品といえば、司馬遼太郎晩年の最高傑作(と、僕は思う)『韃靼疾風録』や金庸初期の快作『碧血剣』が思い浮かぶところだが、この作品の完成度は決してそれらの作品に劣らない。そもそもこの時代というのは英雄、奸臣、天才、暗君、美女、裏切り者その他色々と役者が揃っていて後世から呑気に眺める者としては非常に面白い時代なのだけれど、皇なつきが群雄のなかから選び出して主人公にすえたのは李信という男。天下を揺るがす大乱のさなか、ひとたびは中華帝国の玉座に座ることになる大叛逆者・李自成の傍らにあって彼を助けたと伝えられる人物である。物語は、大明の臣下であるこの李信が退廃した明を見捨て、叛乱に加わって民のために戦うさまとそれに伴う苦悩を描き出しているのだが、残念ながらいまだ未完。皇なつきにはぜひこの続きを書いてほしい。というか、書け!
4 半村良『闇の中の系図』☆☆☆☆ 角川春樹事務所 ハルキ文庫 シリーズ全3巻 伝奇小説
名作、嘘部シリーズの第1作目。かつてその能力により日本を守ってきた天才的な嘘吐きの血族が存在し、その子孫が現代(といっても70年代だけど)まで脈々と生き延びているというとんでもない大法螺を、豊富な知識と巧妙なストーリーテリングで支えた大奇想小説の開幕を告げる1冊である。いまならハルキ文庫で読める。ありがとう、角川春樹。本気で感謝します。まあ、それはいいとして。主人公はその天才嘘吐きの血族・嘘部一族の末裔である浅部宏一。彼がその天与の能力を活かして国際的な謀略をめぐらしていくさまが作中では生き生きと描かれるわけだが、注目すべきは馬鹿馬鹿しい設定を馬鹿馬鹿しいと思わせないそのテクニック。嘘実を巧みにまざりあわせ、現実と虚構の縫い目を曖昧にしてしまうその技法は、山田風太郎が忍法帖で使ったテクに近いかもしれないが、さすが半村良としか云いようのない巧妙さだ。皮肉なラストも印象に残る。
5 河原和音『先生!』☆☆ 集英社 マーガレットコミックス 既刊10巻 学園ラブストーリー
ごめんなさい。趣味の1冊です(笑)。まあぶっちゃけて云ってしまえば歴史を教えている先生のことを好きな女の子がいて、彼女がその先生とくっついたり離れたりするという、ただそれだけでいえば確かにそれだけなお話で、独創性もなにもないのだが、いいじゃん、好きなんだから。で、なんでこんな漫画を読んでいるかと云うと、個人的にこの歴史の伊藤先生のことが気に入っているからなんですね。背が高くて、眼鏡をかけていて、頭よさそうで、それでいてどこか母性本能をくすぐるたよりなさをそなえたいい男、という僕の趣味にピッタリのキャラ。彼が出ているから僕はこんな漫画でもけっこうニヤニヤしながら読めているんだけど、普通の男性が読んでもやっぱり面白くないだろう。買わなくてもいいよ(笑)。だけど細かい心理とかなかなかうまく描けていて、ちょっと感心することもある。十代の女の子が読むべきものには違いないんだけれどね。
6 アン・ライス『眠り姫、官能の旅立ち スリーピング・ビューティー@』☆☆★ 扶桑社 扶桑社ミステリー文庫 シリーズ全3巻 SMポルノ
お前こんなのまで読んでいるのかと云われそうですが、読んでいるんですこれが。第1作がトム・クルーズ主演で映画化された〈ヴァンパイア・クロニクルズ〉のシリーズで知られるアン・ライスのSM小説である。百年の眠りから覚めた眠り姫が美形のスケベ王子に全裸でさらわれて、お城であんなことやこんなことをされるというのが梗概である。まあ要するにただのポルノなので、ストーリーが退屈だという声を聞くこともあるが、こんな小説に面白いお話を期待するほうが間違えているのである(笑)。これは、あのアン・ライスがこんな大バカな話を書いている、ということを楽しむべき1冊なのだ。登場人物みんな美形だし、半分は常に全裸だし、ほとんどレディースコミックの世界だと思うのだが、さすがにゴシックロマンスの女王だけあって、一応退屈せずに読めることは読める。真性マゾの眠り姫に感情移入できるかどうかは僕は知らないけれどね。
7 二宮ひかる『ナイーヴ』☆☆☆★ 白泉社 ジェッツコミックス 全3巻 ラブストーリー
僕が二宮ひかるに惚れこむきっかけになった記念すべきシリーズ。彼女の作品はこのあたりから画期的に進歩していると思う。それまでもうまかったんだけど、ここでなにか画期的なブレイクスルーをとげたというか。いやたぶんただ単に長編になって充分実力が発揮できるようになったというだけのことなんだろうけど。ストーリーはあるサラリーマンとOLの恋愛物語で、それほど奇をてらったものではない。二宮ひかるの本領は細かいエピソードのリアリティにこそあって、近付いては遠ざかる男と女の微妙な関係が嫌味なく描き抜かれている。青年誌の連載ではあるが、女性読者でもじゅうぶん共感できる作品だろう、というか、女性のほうが登場人物の心理がわかりやすいのかも。ところで、僕はこの人がいま日本でいちばん綺麗に女性の裸を描くことのできる漫画家だと思う。ラブシーンをリアルにしかも綺麗に描ける作家は貴重でしょう。
8 田中芳樹『巴里・妖都変 薬師寺涼子の怪奇事件簿』☆☆☆ 光文社 カッパノベルズ シリーズ既刊3巻 伝奇アクション
好評ドラよけお涼シリーズ第3弾である。今回は海外編。はるかフランスはパリが舞台となる。あらすじに関してはいつも通りと云うしかないのだが、世界最強にして最凶の警察官たるお涼の暴走は全2作よりさらにエスカレートしているような気がする。平凡にみえて実はちっとも平凡でない部下の泉田くんもすっかり朱に交わってまっかっか状態だし、止める者もないお涼の破天荒なパワーは古都巴里を灰にするかと思われるのだけれど、もちろん最後はうまくオチがついて幕引きとなる。このシリーズ、はっきり云って魔物との戦い云々はオマケで、美人で金持ちで剣の天才で頭脳明晰なお涼の問題ありすぎな言動と行動がメインだと思うのだが、今回はフランス・オタク世界のディープな一面が詳細に活写されていて、作品にいままでにない彩りをそえている(半分本当)。ストレス解消にはこれ以上ない1冊。ビールでも片手に痛快なひと時をすごすのはいかがですか。
9 橘裕『人形師の夜』☆☆☆ 白泉社 花とゆめコミックス 既刊5巻 ホラー(?)
最近は青年誌なんかでも活躍している橘裕の異色作である。異色作というのは橘裕にしては異色、ということであって、なにか実験的な作風の作品だというわけではない。むしろ最近の少女漫画では少数派になったストレートなエンターテインメント作品であると云えるだろう。人の意識を宿し人間のように動くことのできる人形とその人形をもつ謎の人形師(美女)を狂言廻しにした連作短編集なのだが、意外性にみちた切れ味抜群のプロットは卓越した構成力に裏打ちされたもので、舐めてかかるとグサグサ胸に突き刺さってくるから、くれぐれもご油断なきよう。僕のお気に入りは第6話『パール・ガーデン』。どこか少年のような不思議な少女が魅力的です。ラストの衝撃度で選ぶなら第9話『ピロー・マーチ』かな。いずれにしろ少女漫画なんてどうせベタベタ恋愛しているだけだろ、と思っている人に読ませれば目から鱗落ちまくりまちがいなしの作品である。
10 二階堂黎人『軽井沢マジック』☆☆☆ 徳間書店 徳間文庫 全1巻 本格ミステリ
名(迷?)探偵水乃紗杜瑠シリーズの長編第1作である。長編第2作目および第3作目は分厚いのでこの本か短編集『水野紗杜瑠の大冒険』から読みはじめるのが吉だろう。ついでに云えば文庫版がオススメ。あまり肩に力をいれて読むような小説ではないのだ。なにか面白い小説を読みたい、だけど疲れていてあまり複雑だったり深刻だったりする話は読みたくない、という時に読むのが最適かもしれない。ミステリーなので詳しいすじは書かないが、ようするに出張先で殺人事件が起きて不良サラリーマンの水乃紗杜瑠(美形)と彼に片思いしている同僚の美並由加理(一応美女)が解決に乗り出す、そして解決する、というお話である。ラブコメありギャグあり不可能犯罪ありでお得な1冊。メインはアリバイ崩しネタなんだけれど、それよりもやっぱり紗杜瑠と由加理のキャラを楽しむべき本だろう。なんとなく電車のお供にピッタリのような気がするな。
トップへ。