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11 新井理恵『子供達をせめないで』☆☆☆ ソニーマガジンズ きみとぼくコミックス 全1巻 学園もの(一応) 

新井理恵といえば『×(ペケ)』の作家だ。ギャグ漫画史上に残るだろうあの傑作を書き続けることによって彼女は多くのファンを獲得した。とは云え、喪ったものもまた多いのではないか、と僕などは思う。すくなくともあらゆる価値観を逆転しギャグとして笑い飛ばしてのけたことによって、シリアスなストーリーを描くことがいちじるしく困難になったという一面は確かにあるような気がする。この『子供達をせめないで』は新井理恵の作品のなかで最もシリアスな一作である。家族から虐待をうけ刹那的な生き方に走る少年と、けなげで純真な小学生の少女との心の交流を描いている。だが、『×』を読んだ人間からしてみればそもそも新井が純真な少女などというものを描いていること自体驚きだ。無垢による救済などという幻想を信じる彼女とも思われない。あるいはいままでの皮肉で毒にみちた作風は、実は繊細な魂を護るためのものだったか――そんなことを想像させる作品。

12 伊藤麻紀『リュラの呪縛 〈反逆〉(レベリオン)号ログノートA』☆☆☆ 角川書店 角川スニーカー文庫 シリーズ全4巻 スペースオペラ

傑作スペースオペラシリーズ「〈反逆〉号ログノート」の第2弾。なぜいきなり2作目から紹介するかと云うと、筆者がこの巻の話を偏愛しているからだ。1巻はいま実家の本棚にあって読めないという事情もある。まあそんなことはどうでもいいのだが、個人的に趣味ピッタリの作品である。このシリーズ自体最近では見かけなくなった正しいスペースオペラ的な内容でお気に入りなのだけれど、天才少女リジィと天才少年ヴォワイヤンの激しくも駆け抜けるような恋が描かれるこの第2巻は、退廃美と刹那の恋、そして夭折の美学への憧憬を感じさせ、シリーズ中でもひときわ魅力的な仕上がりになっている思う。少年と少女に赦された時間はわずか3日間、それでもかれらは情熱のうながすままに愛し合うのだ。いまだ幼いにもかかわらず、いや、それゆえにこそ、かれらの恋情は、燃えあがるように激しい――。この巻に限ってはSF小説である前に恋愛小説であるのかもしれない。

13 橘裕『渡辺さん家の一家言』☆☆★ 白泉社 花とゆめコミックス 既刊1巻 ホームコメディ

400字書評シリーズ、橘裕作品2回目の登場である。筆者はこの人の単行本を1冊残らず持っているので、今後もこの書評には彼女の名前が頻出することと思われる。好きなのだ。悪いか。などと被害妄想を膨らませている余裕はこの400字書評にはないので、作品の解説に入ろう。この漫画はつめたい夜の空気を感じさせる『人形師の夜』とは180度ベクトルの違うほのぼのファミリーコミックで、言わば橘裕の表の顔。タイトル通り渡辺さんという一家で起こるさまざまな事件を描いたお話なのだが、全体に漂うほのぼのした空気が最大の魅力だろう。少女漫画ではしばしばこの手の家族ものを見かけるのだが(羅川真理茂の『赤ちゃんと僕』とか)、この作品は家族への過剰な依存を感じさせず、嫌味がない。必読の名作というようなものではないが、読後心が温かくなるような、そんな優しさを感じさせる物語である。オススメ。

14 安井健太郎『ラグナロク 〜黒き獣〜』☆☆★ 角川書店 角川スニーカー文庫 既刊8巻(外伝既刊2巻) ヒロイック・ファンタジー

第3回スニーカー小説大賞受賞作品である。知性を持つ剣の一人称、という小説史上類を見ない斬新なアイディアの作品で、この発想だけでも絶賛されてよいものがあると思う。 アイディアの枯渇化が進む一方の文芸界では、斬新な着想と云うものは宝石を上回る価値があるのだ。ただし作品としては粗が見えないこともない。アクションシーンは面白いのだが、小説としての奥行きがそれについていっていない感がある。主人公は最強クラスの力をもちながら傭兵ギルドを抜け出した青年リロイ・シュヴァルツァー。そして太古の超文明の遺産である魔剣ラグナロク。このふたり(?)がなんだかんだと色々な物を壊しながら旅を続けるというのが簡単な粗筋なのだが、〈エルリック・サーガ〉と〈吸血鬼ハンター〉と『デビルマン』を足して3――ないしは4――で割るとこんな話ができるのかもしれない。読んでみて損はない作品ではある。

15 水沢めぐみ『姫ちゃんのリボン』☆☆ 集英社 りぼんマスコットコミックス 全10巻 ラブコメディ

えーと、べつに説明しなくてもいいよね? 『姫ちゃんのリボン』です。この書評を書くために押し入れを引っ掻き回していたら見つかりました。終わり。……と、いうだけでは300文字以上も字数が余ってしまうのでちょっと付け加えよう。実は僕はけっこうこの漫画を高く評価しています。最初から最後までテーマが一貫しているし、ひとつのビルドゥングス・ロマンとしてなかなかの完成度だと思う。この手の変身少女ものの根本は、云うまでもなく「自分でないだれかになりたい」「普通なら手のとどかない世界に到達したい」という願望に根ざしているわけだが、それはともすれば個としてのアイデンティティの崩壊へと繋がることになる。なりたいだれかに自由になれるのだとしたら、どうしてただの自分などでいる必要があるだろう? だがこの作品は変身をテーマにしながら逆説的に「ほかのだれでもない自分でいること」の大切さ、貴重さを描いている。偉い。

16 リチャード・レイモン『殺戮の〈野獣館〉』☆☆☆★ 扶桑社 扶桑社ミステリー文庫 全1巻 鬼畜ホラー

翻訳を担当した大森望の文章によると「本年度最低傑作」だそうである。ひどい云われようだが、ラストまで読めばこのコピーも納得できる。いや、開始30ページくらいで充分理解できるかもしれない。それより前になげだしてしまうかもしれないけど(笑)。はっきり云って小説技術的にはたいしたレベルにあるお話ではない。こてこてのB級ホラーである。本作の本領は思わず笑いがこみ上げてくるような鬼畜残虐描写にこそある。ほとんど強姦と殺人のフルコースといった趣きなのだが、描写にリアリティがなさすぎるので、ギャグにしかならないのだ。ある意味『スクリーム』を先取りしたパロディホラーと云えるかもしれないが、あれほど計算された作品ではない。やりたい放題やったらギャグになっちゃいました、という感じである。とりあず凡庸なミステリをはるかに上回るラストの意外性は凄まじい。いやぁ、まさかこんなオチとはなぁ。こんなのありかよ。

17 美樹本晴彦『マリオネットジェネレーション』☆☆★ 角川書店 ニュータイプ100%コミックス 全5巻 現代もの

イラストレーターおよびキャラクターデザイナーとして著名な美樹本晴彦による漫画作品である。アニメ雑誌「ニュータイプ」で、永野護『ファイブスター物語』と並んで、毎月8ページずつ長期間連載されていた。美樹本には『マクロス7 TRASH』などの作品もあるが、こっちのほうが面白いと思う。どうしようもなく作者本人を連想させるイラストレーターと、彼の義理の妹になる予定の少女、そして小さな人形に宿った正体不明の魂「らんち」の平凡で非凡な日常を淡々と、というわけでもなく、かなり騒々しく描いた漫画である。壮大な事件が次々と起こるわけではないし、SF的な意匠にこだわっているようでもないので、派手な要素はまったくないのだが、細かい心理描写が巧みで、キャラも魅力的なので、なかなか微笑ましい作品に仕上がっている。作者の微妙な照れ方は、ちょっとあだち充風のテイストかもしれない。

18 久実沙織『ドラゴンファームの愉快な仲間』☆☆☆ プランニングハウス ファンタジーの森 シリーズ全3篇5巻 異世界ファンタジー

『ドラゴンファームはいつもにぎやか』に続くドラゴンファーム三部作の第2作目。この上下巻では前回の冒険で竜と心をかよわせる方法を会得し、デュレント牧場を救うことになったフュンフ少年2回目の旅が描かれることになる。今回は云うなれば「フュンフ都会へ行く」編。前作で名前だけ登場していた彼の兄マチアスの実物がついに登場し、ラストでは父と兄が対立していた真の理由があきらかになる。エンディングも前作と同じくさわやかな内容で(ベタベタだけど)、文句なしなのだが、欠点があるとすれば、あまりにも方法論が正しすぎて強烈な個性に欠けることだろうか。けっして教科書的な内容というわけではないのだが、小説技術が完成されすぎているため意外性がないのだ。このあたりがこの作品が最高傑作『青狼王のくちづけ』におよばない点であり、また小説家久実沙織の今後の課題であるとも思われる。

19 羅川真理茂『しゃにむにGO』☆☆☆★ 白泉社 花とゆめコミックス 既刊6巻 スポーツコミック

少女漫画史に残る大傑作『ニューヨーク ニューヨーク』で筆者を感涙させた羅川真理茂の最新作。萌え萌え、じゃない燃え燃えの熱血テニス漫画である。少女漫画家である羅川はそれほどモーションを描くことが巧みな漫画家ではないのだが、この作品では心理描写に冴えをみせ、また作品設定に意をもちいていて飽きさせない。なにより現状に甘んじず新たな領域を開拓していこうという心意気が素晴らしい。かつてジュニアテニス界で活躍していた少年と、陸上界で天才と云われていた少年が同時に入部してきたことによって、弱小のテニス部がしだいに強くなっていくというのが粗筋。こう書くといかにもお約束な物語のように聞こえるかもしれないが(よく考えてみるとこれって「スラムダンク」と同じ展開だね)、描写がリアルで隙がなく、普通無視されるような要素をきちんと抑えているのが気持ちいい。ほんと、『MAJOR』に見習ってほしいですね。

20 荻原規子『西の善き魔女@ 〜セラフィールドの少女〜』☆☆☆ 中央公論社 C☆NOVELS シリーズ全5巻(外伝全2巻) 異世界ファンタジー(実は違うけど)

『西の善き魔女』シリーズの第1作。ある意味日本幻想小説史上最も知的でソフィスティケートされた連作の開幕である。冒頭からいきなり『赤毛のアン』へのオマージュで始まり、読者を困惑させるが、この作者は確信犯だろう。一見類型的なキャラクター(髪ボサボサで身だしなみもだらしないけれど眼鏡をとると実は美形の幼馴染みとか)も、ありがちなファンタジーとしかみえない世界観も、すべては読者に対して仕掛けられた巧妙な罠なのだ。全5巻のラストでこの世界の真実は明かされる。荻原の作品に共通しているのは「フェイク感覚」とでも云うべき独特の感覚である。本物よりも贋物に共感し愛する感性とでも云えばよいだろうか。他国で生まれ、日本に輸入されて異質なものとなった文化に彼女は愛着をみせる。それはどう模倣しようと海外のそれとは似て非なるものにしかなりえぬ日本のFT小説に対する鋭く分析的な視点を生み出しているようでもある。以下次号。



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