21 萩尾望都『モザイク・ラセン』☆☆☆☆ 秋田書店 秋田文庫 全1巻 ファンタジー・SF短編集

なんでも書けちゃう魔法の漫画家、萩尾望都の山ほどある代表作のひとつである。僕の手元にあるのは秋田書店から出ている文庫版だ。表題作はとにかくルイス・キャロル的に奇妙な物語で、線形の粗筋を語ることは不可能に近い。しかもページ数のわりに登場人物が多く、やたらに話の密度が濃いので非常に読みごたえがある話になっている。1冊10分で読み終わる最近の少年漫画とは異質な世界ですな。作品のメインとなるのは異世界への旅とその世界での冒険なのだが、作品の各所に「螺旋」をはじめとする多彩なイメジャリーが配され、読む者は萩尾望都の千の顔のひとつ――たぐいまれな幻想作家としてのそれ――にあらためて感嘆させられることになる。ところで、SFオンラインのインタヴューではこの作品に対する萩尾大先生おんみずからの批判的検証が読めます。このインタヴューは非常につこっんだ内容なので萩尾ファンはぜひ読むように。

22 水野良『ロードス島伝説@ 〜亡国の王子〜』☆☆★ 角川書店 角川スニーカー文庫 シリーズ全4巻 ヒロイック・ファンタジー

〈新ロードス島戦記〉の開始にいまひとつ納得できないものを感じている僕のような読者でも、こちらなら楽しく読める、という〈ロードス島伝説〉の第1巻でございます。物語の舞台は「戦記」よりさかのぼること30年の昔、恐るべき異世界の魔神たちの侵略に怯えるわれらがロードス島である。主人公は後世「六英雄」として知られることになる伝説の勇者たちと殉教した聖女フラウス、そして六英雄をも上回る資質をもつ美貌の王子ナシェル。これだけの設定とキャラを揃えて面白くならないわけがないという感じの1冊になっている。「戦記」を既読している読者にしてみれば、ナシェルがその時代に生存していないことは自明の事実であるわけで、彼が活躍すればするほどスリリングな思いをすることになる。このあたりの構成はうまい。第1巻はまだまだ全体の序章にすぎないが、未読の人はここからロードスを読みはじめるのも悪くないだろう。伝説は、ここに始まるのだ。

23 細野不二彦『愛しのバットマン』☆☆☆★ 小学館 ビッグコミックス 全13巻 スポーツコミック

技巧派漫画職人細野不二彦の代表作のひとつ。個人的に細野の最高傑作は甘美な破滅願望との孤独な戦いを描くサラリーマンボクサー漫画『太郎』だろうと思っているが、この作品はストイックな『太郎』とはまた別の意味で強烈な魅力を放っている。細野もまた千の顔をもつ漫画家なのだ。さて、架空のプロ野球業界を舞台にしたこの漫画の主人公は香山雄太郎(妻の名前は香山リカ。うーん^_^;)、人気球団、東京ロビンズの4番を打つ天才バッターである。球界屈指の巨躯と、その体格に似合わぬ生真面目で潔癖な性格の持ち主で、豪快さを尊ぶ先輩などから煙たがられることもあるが、チームのだれもが深く尊敬している球界一の人格者、という設定。普通なら主人公ではなく脇役になるようなキャラを主役にもってきた細野のうまさに注目したい。前半は短編集、後半は長編、という構成なのだが、どちらも充分に楽しめる出来である。野球ファンならなおさらだろう。

24 半村良『闇の中の黄金』☆☆☆★ 角川春樹事務所 ハルキ文庫 シリーズ全3巻 伝奇小説

嘘部シリーズ第2作である。ぜひ第1作を読了してから読みはじめてほしい。そのほうがより設定を楽しめるはずだ。今回の主人公はあるしがないジャーナリストの男。喪った過去を抱えて細々と生き続けている彼には、しかし実は余人にない特殊な天分があった。それは「嘘を見破る」能力。天才嘘吐きの遺伝子をもつ嘘部一族のつくりだす壮大にして緻密な嘘をも見破ってしまう天才を彼はもっていたのだ。彼は嘘部によって巧妙に形作られた邪馬台国の秘宝伝説に巻きこまれていくのだが、その過程で完璧な嘘に胡散臭さを感じはじめる。それは日本の国際的な謀略を担当する嘘部一族にとって危険きわまりないことであった。嘘部の目的とはなんなのか? なぜかれらは邪馬台国の黄金伝説をでっちあげねばならないのか? そのすべての謎はラストにおいて明かされ、読者をあっと云わせることになる。よくこんな話考えつくものだと心から思います。

25 谷川史子『ごきげんな日々』☆☆★ 集英社 りぼんマスコットコミックス 全1巻 ラブコメディ短編集

どうも少女漫画ばかり批評しているようで気がひけるのだが――しかたがない。僕の本棚にある漫画は半分以上少女漫画なのだから。で、谷川史子『ごきげんな日々』。この人の漫画の場合、作品のプロットを紹介することはあまり意味がない。「お互いに相手のことを思いあっている者同士の間に誤解が生じて問題が起こるが、最後には誤解がとけ和解してめでたしめでたし」というパターンの話以外ほとんど描かないのだから(笑)。ストーリーはかくのごとくワンパターンなのだが、それはこの際問題ではない。波乱万丈驚天動地の物語など、ほかの作家の作品でいくらでも読めるのだ。谷川史子の作品の魅力は、そのふしぎな優しさと暖かさにある。シンプルな絵、シンプルなプロット、読者に過剰な負担をかけない穏やかな作風で味わえる感覚は、乾したてのふかふかの布団に寝転がるような快感にたとえるのがいちばん近いかもしれない。

26 『ロードス島伝説A 〜天空の騎士〜』☆☆☆ 角川書店 角川スニーカー文庫 シリーズ全4巻 ヒロイック・ファンタジー

〈ロードス島伝説〉の第2弾。1巻ラストで絶望の底に叩き落とされたナシェルの冒険が引き続き描かれる。副題にある天空の騎士とはナシェル自身を指す。彼はこの巻で半身とも云うべき愛竜ワールウィンドを手に入れ、誉れある竜騎士となるのだ。むろん、六英雄たちの冒険も引き続き活写されている。さて、この巻に至ってこの物語と「戦記」との差異がよりいっそう強調されてきたように思える。「戦記」の30年前に設定された「伝説」の世界は「戦記」より暗く原初的なムードを漂わせているのだ。よりヒロイック・ファンタジー的な雰囲気であると云ってもよいかもしれない。魔神に首をもがれて殺された少女の朱(あけ)に染まった裸身のなかで、薄い乳房だけが魔法の光をはじき闇のなか白く妖しく光る場面は素晴らしい。こういった退廃美をもっと強調すれば大傑作にもなりえたと思うのだが――水野らしくはないかもしれない。良くも悪くも、彼の作風は健全だ。

27 しげの秀一『バリバリ伝説』☆☆☆☆★(その1) 講談社 少年マガジンKC 全38巻 レースコミック

『頭文字D』で有名なしげの秀一の出世作。読みはじめると止まらない度漫画史上最高を誇る(ライバルは『ガラスの仮面』だろうな)レース漫画の大傑作である。というか、レース漫画はこれと『頭文字D』が究極で、ほかのは質が落ちる二流品にすぎないと断言してもかまわないだろう。格が違いすぎるのだ。『頭文字D』が人間ドラマや心理戦の妙をも巧みに描きだしているのに対し、この作品は徹底的にスピード感のみを追求している。作劇術としてはあきらかに『頭文字D』の方が上なのだが、純粋なスピード感覚においてはこの作品が上回ると僕は思う。ということは漫画史上まちがいなくぶっちきぎりでbPのスピード表現をなしとげた作品であると云える。「だれよりも速く」――その言葉だけを信じて日本の、世界のサーキットを走り抜いていこうとする青年の活躍を見てやってほしい。無意味の意味に賭ける彼の姿は、きっとあなたの胸を熱くするはずだ。

28 梶尾真治『クロノス・ジョウンターの伝説』☆☆☆ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫NEXT 全1巻 時間SF

それ自体ひと粒の宝石のようにうつくしい小品「美亜に贈る真珠」を読んだことのある人ならば、梶尾真治と時間SFの組み合わせが絶対無敵であることを知っているだろう。ある欠陥をもつために一般に使用されることがなかったタイム・マシン「クロノス・ジョウンター」を狂言廻しにしたこの短編集でも、そのことを証明するかのように、時と人との戦いを主題にした感動の物語が綴られている。僕の手元にあるのは3篇の中篇が収められた文庫版だが、収録作はすべて、愛にかかわる目的をもって時に対し無謀な挑戦を試みる人々のラブストーリーである。タイム・マシンテーマの恋愛小説といえば、ハインライン『夏への扉』や筒井康隆『時をかける少女』をはじめとして傑作が目白押しだが(個人的にはティプトリーの「ハドソン・ベイ毛布よ、永遠に」がベスト)、これらのセンチメンタルな作品たちはそういった名作に劣らぬ感動を秘めている。オススメ。

29 士郎正宗『DOMINION コンフリクト編』☆☆☆★ 青心社 COMICBORNE 既刊1巻 タンクポリスアドヴェンチャー(?)

世界で(たぶん)唯一の平行世界警察戦車SF『DOMINION』の現時点での最新作。
1巻がでてからすでに5年近く新刊が出ていないが、士郎ファンにとってその程度の時間は意に介すに足りないものなので大丈夫だ(なにが?)。とは云え「攻殻2」はさすがにいいかげん出してほしい。サイバーパンクは時代と供にあってこそのサイバーパンクなんだから、というのはともかくとしても(我ながら強引な繋ぎ方)、この作品は時代の変移とはほぼ無関係に面白い。膨大な情報を操り高密度な物語空間をつくりだす構成の魔術師・士郎正宗のもうひとつの顔――巧妙なストーリーテラーとしての顔がこの作品では前面に押し出されているからだ。複数プロットと複数テーマの同時展開は英米警察ドラマの常套手段だが、漫画としてこれほど完璧にそれをやってのけている作品は多くないだろう。読めば読むほど味がでる独特の士郎世界をどうかじっくりと楽しんでほしい。

30 西沢保彦『依存』☆☆☆☆ 幻冬舎 全1巻 本格ミステリ

シリーズ最大の分量で送る匠千暁(タック)シリーズの最新作。そしておそらくは最高作である。この巻のラストではこれまでのシリーズ読者にとってはあまりにも衝撃的な真実が待っている。ぜひ、『彼女の死んだ夜』『スコッチ・ゲーム』『麦酒の家の冒険』などの既刊作品を読んでからこの本に手を伸ばしてほしい。結末である女性が口にするひと言による感動は、登場人物たちのひととなりと人生を詳しく知っていれば知っているほど大きくなるはずだ。これまでのすべての物語があたかもそのひと言のためにあったかのように、それは読者の胸に響くだろう。これは、ある愛の物語、そしてある失恋の物語である。一応は推理小説の形式をとっているが重点は犯罪の解決にはなく、ひとつの真実の探求にある。そしてそのことによって、これまでの作品で描かれてきた4人の男女の幸福な関係は、決定的な変質をとげることになる。西沢保彦の小説家としての成熟をしめす1作。



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