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41 樹なつみ『花咲ける青少年』☆☆☆☆ (その1) 白泉社 花とゆめコミックス 全12巻 グローバルサスペンス
樹なつみの代表作と云えば、一般的には『OZ』だろうが、僕は個人的にこれを推す。少女漫画史上に比類のない壮大なスケールで送る一大エンターテインメントである。主人公は世界一の大財閥の会長の娘だわ、超絶美形の貴族青年や元気印の王子さまや敵財閥の御曹司が主人公のまわりに集まってくるわ、中東の王国で革命がおこって主人公がそれに巻きこまれるわ、とにかく華やかで派手なお話である。こう書くといかにもリアリティのない漫画的な物語を想像されるかもしれないが、作者の知識が豊富で描写が的確なため、意外に荒唐無稽の感は薄い。たとえば国際謀略サスペンスとして『アフタヌーン』に連載されていたとしてもおかしくないだけの設定がなされているのだ。ここらへんがまさに古い少女漫画と違うところなんだろうな。少女漫画ヴァージンの人にも安心してお勧めできるシリーズ。12冊あるが、一気に読み通せるはず。たぶんね。
42 水野良『ロードス島伝説B 〜栄光の勇者〜』☆☆★ 角川書店 角川スニーカー文庫 シリーズ全4巻 ヒロイック・ファンタジー
〈ロードス島伝説〉第3巻。いままでと同じように亡国の王子ナシェルを主人公に物語は進む。この巻ではロードスを震撼させた異世界の魔神たちに対してようやく対策が講じられはじめ、物語の比重は人間たちのドラマへと移っていく。そのため、ヒロイック・ファンタジーとしての魅力がいささか薄れたようにも思う。ロードスを壊滅させることも可能な力をもつはずの魔神たちを前にして、人間たちはあまりにも余裕がありすぎはしないか。もっと絶望的で救いのない、それゆえに真剣なドラマをこそ僕は見たかったように思う。つまらないと云っているのではない。さらなる傑作になれたはずだと云っているのだ。ファンタジーの世界の住人である魔神たちは、近代的なロジックを打ち砕く超自然の象徴であることもできたはずなのに、ここでは現代の論理の枠内におさまってしまっている。それが残念なのである。ところでナシェルってラフィニアのどこがそんなにいいのかね?
43 星崎真紀『Drクージョ危機一髪』☆☆☆ 白泉社 花とゆめコミックス 全6巻 コメディ
きわめて軽快なスチャラカコメディ。どんなに疲れているときでも気楽に読める、で、よく考えてみると意外にけっこう深い、そういうお話。少女漫画史上、というか漫画史上で唯一の歯科医ラブロマンスだろう。まぁ、ひとつあれば充分だが(^^ゞ。主人公はニューヨークで歯医者を営む青年九条憲章。通称Drクージョ。ハンサムで腕もよい彼だが、実はとんでもないトラブルメーカー。しかもなぜかいつも根拠のない自信にみちていて、事件の嵐のなかを余裕の笑みで駆け抜けていく。彼のもとには時にハリウッド映画的な大事件も襲いかかってくるのだが、クージョは市警のソニア刑事とともに、なんだかんだと騒ぎを大きくしながらもそれを解決してしまう。恋と仕事の両立に悩むソニアのキャラもきわめて魅力的。それにしてもなぜ少女漫画家ってこうニューヨークが好きなんでしょうね。この街を舞台にした名作がいっぱいあるんですけど。
44 司馬遼太郎『燃えよ剣』☆☆☆☆☆ 新潮社 新潮文庫 全2巻(上下巻) 歴史小説
いまさら僕が誉めるまでもないような名作中の名作。新撰組ものの最高・至高・究極の作品であり、天才小説家司馬遼太郎の才能が爆発しきった超絶的傑作である。これを読んで燃えないような男は男ではないとか、これを読んで萌えないような女は女ではないとか世間では云われている(嘘。僕個人が云っているだけ)。主人公は新撰組副長土方歳三。物語は彼の郷里での活躍から、新撰組の結成、池田屋討ち入り、鳥羽伏見の戦いでの幕府軍の敗退、そして五稜郭における壮絶な死までを淡々と追いかけていく。沖田や近藤との炎の友情。お雪とのあいだの淡い恋愛。それらすべてを振りきるようにしてただひたすらに死へと駆けぬけていく土方の生き様になにも感じないような人は、きっと感受性が磨耗しきっているのであろう。終盤の展開は思わずページをめくる手を止めたくなるほど哀しい。読めばかならず新鮮組ファンになってしまう奇蹟の小説。庵野秀明氏も大ファンだそうな。
45 橘裕『Honey』☆☆☆ 白泉社 花とゆめコミックス 既刊2巻 ラブコメディ
どう解説したらいいものか。若くて可愛くて優しくて純情な保健室の先生、長谷川千鶴(通称ちーちゃん。生徒にまでそう呼ばれている)を主人公にしたラブコメっぽい連作なのだが、この漫画の面白さはとにかくこの「ちーちゃん」の魅力につきる。綺麗だしピュアだしプリチーだし少女漫画のヒロインさせておくには惜しいキャラである(こらこら)。90年代になってからの少女漫画界では、それまでとは異なる女性像へのアプローチの仕方があらわれてきたように思う。実像とかけ離れた幻想的女性像が増えたよう気がするのだ。そのひとつの典型が高屋奈月『フルーツバスケット』の主人公「透くん」であるわけだが、このちーちゃんもそういった流れのなかで出てきたキャラクターだと云えるだろう。「白衣の天使」なんて云い方がぴったりくる彼女のキャラはリアリティがすこしもないが、にもかかわらずやたらに魅力的である。ちょっとHなハートウォーミング系の1作。
46 綾辻行人『十角館の殺人』☆☆☆ 講談社 講談社文庫 全1巻 本格ミステリ
すこしでもミステリを齧った人なら知らないは人はいないだろう。本格ミステリのメルクマールにして綾辻行人のデヴュー作たる作品である。いわゆる新本格ミステリと呼ばれる推理小説のムーヴメントはこの作品を嚆矢として始まった。今日ではすでに伝説の1冊と云ってよいかもしれない。狂気の天才建築家によってつくられた、孤島にそびえたつ十角形の館「十角館」を舞台にした連続殺人は、あきらかにクリスティの「そして誰もいなくなった」を意識したもので、つまり新本格ミステリの特徴であるはてしない自己言及はこの作品ですでにはじまっていたわけだ。アマチュア時代の作品であることもあり、文章力などには未熟さを感じさせるものがあるのだが、綾辻作品の特徴であるつめたいほどの上品さはすでにここにある。しかしここからわずか9年で『コズミック』が誕生してしまったのだと思うと空恐ろしい気がしますねぇ。
47 小花美穂『こどものおもちゃ』☆☆☆★ 集英社 りぼんマスコットコミックス 全10巻 コメディ
現在、異色作『パートナー』を連載中の小花美穂の出世作。アニメにもなったので、ご存知のかたも多いだろう。この漫画版をアニメ版と比べると、ギャグのテンションの高さでは一歩譲っているものの、人間ドラマの厚みではこちらが勝っている。りぼん連載の作品でここまでしてもええんかい、と余計な心配をしたくなるくらい重厚なドラマを繰り広げてくれているのだ。主人公は芸能界で活躍するチャイルド・アイドルの少女。簡単に云ってしまえば、明朗快活元気一杯な彼女がこれでもかと押し寄せてくる試練をひとつひとつ着実に乗り越えていくのがこのお話の基本プロットになっている。彼女は実は捨て子で、母親とは血がつながっていないのだが、普段はそんなことを気にすることもない。ただひたすらにあかるく生きる、悩んでもしかたないことを悩まない、それが彼女のスタイルなのだ。非常にかっこいい女の子であり、読んで損はない作品である。
48 『グイン・サーガ外伝E ヴァラキアの少年』☆☆☆☆ 早川書房 ハヤカワ文庫JA シリーズ既刊16巻(正伝既刊75巻!) ヒロイック・ファンタジー
ヴァラキアのイシュトヴァーン。それが彼の名。齢は十六。いまだおのれの腕と頭脳のほかに何も持たず、何も信じず、ただいつか手に入れるものだけを夢見て、壮大な野望を燃やす少年――。これは、日本、否、世界で最大の大河ヒロイック・ファンタジー〈グイン・サーガ〉の登場人物のなかで最も熱く、激しく生きる後のゴーラ王イシュトヴァーンが、まだ十六の少年だった頃の物語である。舞台となるのは港町ヴァラキアの下町チチア。貧困と退廃が渦をまく、娼婦と盗賊と博打打ちのための街。僕は今日すでに正編外伝あわせて70巻を越えるに至った〈グイン・サーガ〉をここから読みはじめ、そしてイシュトヴァーンに出遭った。以来10年もの月日がたつが、これまで読んできた何千という小説のなかにも、彼ほど鮮烈なキャラクターはいない。殺人王となった今日の彼を思えば、この少年の日のイシュトはあまりにうつくしく、あまりに痛々しい。ただただ、涙。
49 士郎正宗『攻殻機動隊』☆☆☆☆ 講談社 ヤングマガジンKCDX シリーズ既刊1巻 サイバーパンクSF
90年代の終わりが近付くこの頃になっていまさらに思う。結局、日本でサイバーパンクらしいサイバーパンク作品というのはこれしかなかったのではないかと。サイバーパンクと日本とは深い縁がある。サイバーパンク小説の代表作にして最高傑作たるウィリアム・ギブソン『ニューロマンサー』の冒頭の舞台が22世紀の千葉市(チバ・シティ)だったのだ。だが、なぜかふしぎと日本ではサイバーパンクは小説や漫画や映画の形でブームを起こしはしなかった。日本を代表するSF作家たちは、大原まり子をはじめとして、むしろサイバーパンクという言葉で自作をくくられることを拒絶していたようにも思える。その理由は僕にはわからないが、この『攻殻機動隊』1冊だけでもその穴を埋めることはたやすいといえるかもしれない。超高密度の画面とセンスのよい造語(「2902光学迷彩」とか)が生み出す独特の世界は読めば読むほど味がでてくるというスルメ的魅力がある。
50 菊地秀行『吸血鬼ハンター@ 吸血鬼ハンター゛D゛』☆☆☆☆ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 シリーズ既刊12篇20巻(外伝1巻) 伝奇アクション
伝説の開幕を告げるシリーズ第1作。菊地秀行最大のベストセラー・シリーズ〈吸血鬼ハンター〉のスタートである。主人公の青年はその名もD。時をも凍てつかせるような氷の美貌と妖魅悪霊をも斬り殺す神技の持ち主。物語の舞台は西暦120世紀、これまで数十世紀にわたってこの星を支配してきた吸血鬼〈貴族〉たちの権勢と支配が衰え、被支配階級であった人類が文明の再興を企てている、そんな時代の地球。この巻では辺境最強といわれる「吸血鬼ハンター」にして、自身も吸血鬼の血をひいている非情な青年Dとひとりの少年の心の交流、そして強大な力と明晰な頭脳をもちながら滅んでいかねばならぬ吸血鬼たちの悲哀が描かれる。このシリーズは伝奇アクションでありながらアーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』に連なる滅亡テーマのSFでもあるのだ。作品に流れる哀切な空気こそが衰えぬ人気の理由であろう。
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