51 一色まこと『ピアノの森』☆☆☆☆ 講談社 アッパーズコミックス 既刊5巻 音楽コミック

傑作。今年見つけた漫画では五指に入る作品だ。ヤングマガジンアッパーズなんかの連載でなければもっと早く読んでいたのだが。うーむ。まぁ、いい。おかげで5冊まとめて読む機会を得られたのだから。主人公は天才ピアニストの資質をもつ少年、一之瀬海。比類ない天与の才をもつ彼と秀才型のライヴァルの少年、そしてかつて同じように天才と云われながら事故でピアニストとしての夢を断たれた海の師の3人がこの物語の中心人物である。ようするに、少年ピアニスト版『ガラスの仮面』だと思えばいい。作品としての魅力はさすがに『ガラスの仮面』にはおよばないが、これはあの作品が凄すぎるというだけのことだ。なにより作品の空気はこの漫画のほうがはるかにさわやかである。そのさわやかさを生み出しているのは主人公の魅力が大きいだろう。絵に描いたような「少年」のイメージをもつキャラなのだが、その生き生きとした表情は今日非常に新鮮だったりする。

52 『ロードス島伝説C 〜伝説の英雄〜』☆☆☆ 角川書店 角川スニーカー文庫 シリーズ全4巻 ヒロイック・ファンタジー

そして少年は伝説になった、というお話。いまさらあらすじについて詳述はしない。ここまで読んでこられた読者諸氏は、ナシェル王子の運命の結末を固唾をのんで見守ってほしい。これだけでは字数が余るので、六英雄(+フラウス)について語ろう。かれらは、ひとりがひとつのファンタジー的世界観を象徴しているように思える。聖騎士ファーンはアーサー王物語的騎士道ロマンスの世界を、蛮人の戦士ベルドは〈コナン〉的ヒロイック・ファンタジーの世界を、魔術師ウォートは不可思議な魔法の世界を、聖女ニースは東洋的土着信仰の世界を、ドワーフの王フレーべは人ならざる妖精妖魔たちの奇妙な世界を、名もなき魔法戦士こと灰色の魔女カーラはいまは滅びた錬金術師たちの知的な世界を、そしてもうひとりの聖女フラウスは西洋的一神教の世界を、それぞれ代表している。まさに絶妙なキャラクターメイキングと云うほかない。

53 羅川真理茂『赤ちゃんと僕』☆☆☆☆ 白泉社 花とゆめコミックス 全18巻 ホームコメディ

有名な作品だから既読されている方も多いだろう。アニメ化もされた羅川真理茂の出世作である。後の彼女の活躍を支えているのは、この作品でつちかった構成力であろうと思われる。お話の内容はタイトルの通り。交通事故で母を喪い、まだ碌に言葉も話せない幼稚園児の弟の世話をしなければならなくなった小学生の少年の努力と苦悩と葛藤の日々。いやそんな辛気臭い話ではないのだが。これがもし女の子が主人公のお話だったら確かにさぞかし辛気臭い物語になっていただろうが、自分自身まだ小学生にすぎない少年がなんとか弟を世話しようとする姿はなんとなく微笑ましい。ここらへん、けっこうフェミニズム的な問題であるのかもしれん。まぁ、学問の話はこの際どうでもいいのだが、注目すべきは育児の負の側面――可愛いだけじゃなく生意気で嘘吐きで礼儀知らずで云うことをきかない子供たちの憎たらしさをきちんと描いていることだろう。最終話はとにかく泣ける。

54 『タイム・リープ 〜あしたはきのう〜』☆☆☆★ メディアワークス 電撃文庫 全2巻(上下巻) 時間SF

非常にうつくしいプロットときわめて読みやすい文体をもつ時間SFの佳品。なにより若松くんがかっこいい。ああいう頭よさげで頭よくてクールででも実は優しい男の子って大好きです。って、僕は女子中学生か。……寒すぎるひとりボケ&ツッコミはこれくらいにして、本編の解説に入ろう。本作を評するとき、よく「パズルのような構成」という言葉が使われる。しかり。これは直線的に流れることをやめてしまった時間がまさにジグソーパズルのように組み合わされていく物語である。その完璧さはまさしく時間SFの真髄。すべてのピースが嵌まるべきところに嵌まった瞬間のカタルシスは、最良の本格ミステリ――たとえば、山田正紀『阿弥陀(パズル)』――に軽く匹敵する。ところで、登場人物の名前があだち充『みゆき』からとられているという話は本当なのでしょうか? だれかおせーて。

55 竹本泉『ねこめーわく』☆☆☆ 宙出版 ミッシィコミックスDX シリーズ既刊2巻 パラレルワールドSF(一応本当)

ある雑誌に「ここまでくると、もうファンか否かでしか判定できない」みたいなことが書いてあったが、まさにそんな作品である。人間によって知的に進化させられた平行世界の猫たちに、魔法で召喚(しょうかん、と入力したら娼館と変換された。僕のワープロソフトって一体……)された女子高性のお話なのだが、二足歩行してなにかと人間の真似をしようとする猫たちがとにかくかわいすぎる。クリフォード・D・シマックの『都市』猫版というよりも、むしろポール・アンダースン&ゴードン・R・ディクスンの〈ホーカ・シリーズ〉猫ヴァージョンみたいなノリですね(作者も自分でそんなことを云っているし)。たぶん、このかわいらしさが生理的に受け入れられない人もいるだろうけど、一度受け入れてしまえばこのなんともファンシーな世界に浸ることができるはず。竹本ワールドの入門編にぴったりなのではないだろうか。

56 荻原規子『西の善き魔女A 〜秘密の花園〜』☆☆☆☆★ 中央公論社 C☆NOVELS シリーズ全5巻(外伝2巻) 異世界ファンタジー(実は違うけど)

傑作ファンタジーシリーズ〈西の善き魔女〉の第2巻。この巻で物語は仮面を脱いで真の姿をみせる。1巻を読んで凡庸だと感じた人も、せめてこの2巻の最後までは読んでみてほしい。確かに好みがわかれる作風ではあるのだが、僕は爆笑した。アデイル、きみってやつは、ほんとに……。今回の舞台は王立女子校。フィリエルは名家や貴族の子女が集まってくるこの学校に一時避難の形で入れられることになる。ここはかつて彼女の親友にして一国の王女でもあるアデイルが通っていた学校であり、そしてアデイルが書いていたヤオイ系同人誌(!!!)のファンが山ほどいる場所でもある。アデイルの知人ということで祭り上げられるフィリエルだが、何者かに命を狙われて……と、一応サスペンスの盛り上げもあるのだが、はっきり云ってそういう要素はあまり重要だとは思えない。メインはやっぱりどこまで本気なのかよくわからないようなギャグのほうである。あー、笑った。

57 犬上すくね『恋愛ディストーション』☆☆☆ 少年画報社 ヤングキングコミックス 既刊1巻 ラブストーリー(ペット漫画という説あり)

いいですよ、このお話。最近、『ハネムーンサラダ』のニ宮ひかるをはじめとして、女性作家が少女漫画やレディースコミック以外のシーンで描いている恋愛漫画がちょっと面白いと思っているのだが、そういった作家たちのなかでも犬上すくねのセンスのよさは際立っている。物語はどこにでもいそうなふた組のカップルのちょっとしたラブストーリーを交互に描いているのだが、その描写が妙にリアルで身近っぽい。彼女がしてくれたちょっとしたことで有頂天になったり、怒らせたくないのに怒らせてしまったり、どうでもいいような些細なことで喧嘩してしまって後悔したり。恋人たちのドラマはしばしば本人たちが真剣であればあるほど滑稽だったりするものだけれど、作者は優しい視線でそれを描ききっている。僕的白眉は「愛しのリボンちゃん」かな。この連作のなかではわりにストレートな話ラヴストーリーだが、ありそうでなさそうな展開が愉快痛快。

58 西沢保彦『なつこ、孤島にとらわれ。』☆☆☆ 祥伝社 祥伝社文庫 全1巻 トランスセクシュアル的本格ミステリ(ていうか、変態小説)

しかしよくもまぁこうめちゃくちゃな小説を書くものだ、とついしばし感嘆してしまった1冊。一応推理小説の体裁をなしてはいるのだが、これを推理小説と呼んでもいいものかね。まちがえても緻密なロジックだの完璧な推理だのを期待して読んではいけません。考えてみれば出版元は祥伝社だもんな。こういう内容でいいのかもしれない。うん、いいのかも。えーと、ひとりで納得していてもしょうもないので、解説。これは実在するバイセクシャルお耽美小説家森奈津子を主人公にしたミステリである。表紙はかなりさわやかなのだが、中身はちっともさわやかではない(笑)。なぜならば、妄想癖が強すぎる主人公の奈津子がしょっちゅう「ああっ、お姉さまっ。いやっ。やめてっ」みたいなエロエロな妄想を頭のなかで繰り広げているからだ。問題は、ミステリ的なネタよりもこういった妄想のほうが面白いということで、ほんとにこんなのでいいのかね。まいりました。

59 山田章博『ロードス島戦記 〜ファリスの聖女〜』☆☆☆☆(その1) 角川書店 ドラゴンコミックス 既刊1巻 ヒロイック・ファンタジー

この本、第1巻が出版されたのは1994年なんだけど、まだ続刊が出ない。たぶん2001年にはでるんじゃないかと思うので気長に待っているのだが、確かに待つだけの価値がある漫画ではある。日本のヒロイック・ファンタジーでここまで重厚な世界観を確立しているのは、小説・漫画・映画・ゲームすべて含めて、ほかに三浦健太郎『ベルセルク』と栗本薫〈グイン・サーガ〉、そしてクエストの『タクティクス・オウガ』くらいしかないだろう。はっきり云って一応は原作であるところの水野良の小説よりもはるかに完成した世界をなしている。まさに剣と魔法の異次元世界、伝説の〈コナン〉シリーズや〈ファファード&グレイマウザー〉シリーズを思わせる傑作である。サブタイトルにある「ファリスの聖女」とはフラウスのこと。彼女はこの物語のラストで、魔神王に殺され「聖女」へと昇華する(はずだ)。それが「ロードス島戦記」すべてのエピソードのはじまりである。

60 マイケル・ムアコック『エルリック・サーガ@ 〜メルニボネの皇子〜』☆☆☆☆ 早川書房 ハヤカワ文庫SF シリーズ全8巻 ヒロイック・ファンタジー

メルニボネ大帝国の皇帝だった時代のエルリックの物語。第3巻においてふたたび激突することになるふたりの皇子とふた振りの〈黒の剣〉の初対決が描かれる。この巻だけは翻訳が安田均で、井辻朱美のそれとはまた違う魅力をもつ硬質な文体を楽しめる。特に冒頭の文章の暗く神秘的なうつくしさは素晴らしい。ここを読んで続きを読みたくならない人は感受性に問題があるから病院に行って診てもらったほうがいいだろう。さて、この巻のエルリックはいまだストームブリンガーと出遭っておらず、帝国と故郷を喪ってもおらず、孤独と周囲の無理解に苦しんではいるものの未来にかすかな希望をいだいている(2巻の巻頭ではすでにそれをなくしているのだけれど。不幸なやつ)。しかし、だからこそ、彼の未来を知る者にとってはこの巻はあまりに読むのが辛い。これから彼を待ちうけているのは一時たりとも心やすまることのない日々なのだ。



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