61 『王ドロボウJINE』☆☆☆☆ 講談社 ボンボンコミックス 全7巻 ジャンル分類不可能
なぜか「コミックボンボン」で連載されていたマボロシの名作(大袈裟)。あらゆるドロボウのなかでも傑出した能力をもつ王ドロボウである少年JINEの冒険の物語。こう書くといかにも子供向けとの印象をうけられたかもしれないが、それは大きな間違いである。奇抜かつスピーディーなプロット、印象的なキャラクター、そして毎回毎回惜しげもなく繰り出される想像を絶するヴィジュアル的アイディア――子供たちに独占させておくのはあまりに惜しい作品だ。ざっとみただけでも、世界中からドロボウがあつまるドロボウの塔、結晶生命体の少女、高い温度のなかでは爆発してしまう爆弾生命体、出場選手が仮面をつけて闘いあう仮面武闘会、世界中のすべての色が集まってくる色彩都市、などのアイディアが見つかる。ここまで聴いて読んでみたくならないのなら、あなたは僕とは違う感性の持ち主であるのにちがいない。凄いよ。
62 『エルリック・サーガA 〜この世の彼方の海〜』☆☆☆★ 早川書房 早川文庫SF シリーズ全8巻 ヒロイック・ファンタジー
〈エルリック・サーガ〉がそれだけで完結した作品ではなく、さらに巨大で複雑な物語の一部であるということは、FT小説ファンならばだれでも知っていることだ。その物語は〈エターナル・チャンピオン〉シリーズと呼ばれる。それは百万もの平行世界に転生を繰り返し戦いつづける宿命をもった「永遠の戦士」の物語である。エルリックもその「永遠の戦士」のひとりであり、別の世界ではコルム、エレコーゼ、ホークムーンなどという名で知られているのだ。ところがこの巻ではその4人の「永遠の戦士」が勢揃いしてしまうことになる。「百万世界の合」と呼ばれる現象がその原因なのだが、当然というか、ホークムーンの物語を綴った〈ブラス城年代記〉中の『タネローンを求めて』という物語でもこのエピソードは繰り返し語られ、読者を迷宮へといざないこむことになる。ぜひ続けて〈ブラス城年代記〉も読んでほしい。絶版だから探すの大変だろうけど。
63 高河ゆん『源氏』☆☆☆☆(その1) 異世界ファンタジー(?) 新書館 WINGSコミックス 既刊8巻
ストーリーテラーとして、単純にお話だけを見るなら高河ゆんの全作品のなかでもこれがいちばん面白いかもしれない。ただし余分な説明を省いてハイテンポですすんでいくので、ついてこれない人はついてこれないだろう。この時代の高河ゆんの作品には、まさに圧倒的なスピード感と確信がみちている。主人公の克巳が、いなくなってしまった恋人さくらを追いかけてたどりついた世界では、源氏と平家が争いを続けていた(もっとも、その世界は過去の日本や一般的なファンタジーの世界とは似ても似つかない現代的な世界である)、という冒頭からはじまって意表をつくアイディアが続出し、異様な情熱をかかえて戦争に生きる人々の思いが綴られる。源平合戦に登場したさまざまな人物(清盛や義経、弁慶など)が形を変えて次々と登場するのは快感。そして第7巻は何度読んでも哀しい。しかしこの話も完結していないんだよなぁ。どういうことだ、高河ゆん。
64 上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』☆☆☆☆ メディアワークス 電撃文庫 シリーズ既刊8篇9巻 学園もの
ブギーポップの登場はあらゆる意味で斬新だった。そのセンス、そのプロット、そのキャラクター、そのイラスト。すべてにこれまで読んできた小説とはなにか異質な感覚があった。ひとつひとつを取り上げてみればむしろ平凡なようにも見えるのに、全体を俯瞰して眺めてみればそれはやはり見知らぬ物語なのだ。物語全体が5話からなり、そのすべてを読み通すことによって始めて世界の全体像が見えてくるというそのアイディア自体は過去にいくつもの類例を見ることができるかもしれないが、それを処理する手際のあざやかさは驚くべきものだった。そして現実と非現実がシャッフルされた世界観や、主人公たちがむかえる死の身近さとリアリティは、それを読む者たちにひとつの事実をつきつけていた。「これはまさに君たちの生きる現実の物語なのだ」、と。鬼才上遠野浩平の描き出す佳麗にして非情なる世界世界がここに幕をあげたのである。必読。
65 川原由美子『観用少女』☆☆☆☆ (その1) 朝日ソノラマ 眠れぬ夜の奇妙な話コミックス 既刊4巻 連作短編集
日本で最も美麗な作品。そう断言してもかまわないだろう。とにかく画面の端から端までただひたすらに繊細でうつくしい。どんな人間よりもうつくしく儚くそして高価な人形少女「観用少女(プランツドール)」を狂言廻しにした連作短編連作なのだが、「少女」を除く登場人物の名前が語られないことが、過剰なセンチメンタリズムに陥ることを防いでいる。画面上に近未来的なビルディングが建ち並んでいるのは、この作品がSFに属する漫画であるからではない。むしろ、かつて先進的だったSF的未来像こそが今日においては最もノスタルジックなヴィジュアルだということだろう。「懐かしい未来」とでも呼ぶべき風景のなかで、「少女」と人間たちはちいさなドラマを繰り広げる。それはハッピーエンドに終わるとはかぎらない。愛だけを糧にして生きる「少女」に対して、純粋な愛情を注ぐことができなかった者に待ちうけるのは幸福とは云いがたい結末であることがほとんどだ。
66 『デルフィニア戦記@ 〜放浪の戦士〜』☆☆☆ 中央公論社 C☆NOVELS シリーズ全18巻 ヒロイック・ファンタジー
悩ましい作品である。多くの熱狂的ファンをもち、世評がかなり高いにもかかわらず、筆者にはいまひとつその面白さがわからないのだ。つまらないと云っているのではない。話のテンポは軽快だし、登場人物も魅力的、ストーリーは王道で隙がなく、文体も悪くない(ときどき日本語がおかしいけれど)。だが、それだけじゃないか、という気がするのだな。ひとを熱狂させる作品というものは、人間の醜悪、人間の愚劣から目をそらさず、それを冷静にみつめる視点を、例外なくそなえているものが、この作品にはそれが欠けているように思える。また格好いいキャラが格好よく活躍するだけでは人間ドラマの厚みが欠けているではないか、とも思うのだが、しかし現実に大勢ファンがいるということは、僕には理解できない魅力がなにかあるということなのだろうなぁ。さまざまな意味で〈グイン・サーガ〉の対極にある作品だと思う。ぜひ読んで僕に感想を聞かせてほしい。
67 めるへんめーかー『時の国のアリス』☆☆☆ 白泉社 花とゆめコミックス 全1巻 短編集
極私的に偏愛する漫画家めるへんめーかーの単行本(10年がかりで無数の出版社にわたって出ている単行本をほとんど集めたくらい好き)。このひとの漫画は(大傑作『森に住む人々』をべつにすると)、どの単行本を開いてもわりと同じような世界が広がっているのだが、とりあえず手元にあったこの単行本の名前をあげておくことにした。ほんとうは『永遠なる夢 永遠なるめざめ』なども読んでほしいのだけれど、いまとなっては入手困難だろうからなぁ。さて、彼女の漫画を読んだことがないひとでもその独特のイラストに見覚えはあるかもしれない。彼女は、久美沙織『丘の家のミッキー』やフィリス・アイゼンシュタイン『妖魔の騎士』といった作品のイラストを手がけているからだ。好みのわかれる絵柄ではあるのだが、僕は好きだ。大好きだ。ほんわかほのぼのとした独創的な宇宙はちょっと類のないものなので、古本屋でこの本を見つけたら保護してやってほしい。
68 『グイン・サーガ外伝H 〜マグノリアの海賊〜』☆☆☆★ 早川書房 早川文庫JA シリーズ既刊16巻(正編75巻) ヒロイック・ファンタジー
外伝6巻から続くイシュトヴァーンが少年だった頃の物語。今回の舞台はある南の島。彼は海賊船の船長としてその島を訪れ、そこで3人の女と出会い、彼女たちから何かを奪い彼女たちに何かを与えて、去っていく。そういうお話。だが、あえて云ってしまえば、ストーリーはたいして重要ではない。けだるい空気の漂う南の島(モデルは南国の楽園タヒチあたりか)で、こののち駆け抜けるような生涯を送ることになるイシュトヴァーンがいっとき羽根を休めた、その事実のほうが重要なのだ。彼はこの島を出たのち、すべてを喪って中原へと戻り、そして豹頭の戦士グインと出会う。それが運命神ヤーンが織り成す運命のタペストリーの最初の一糸――。この数年後「ゴーラの僭王」と呼ばれることになる青年が、まだ何も持たず、だからこそしあわせでありえた頃の恋物語。それは一時の夢にすぎないかもしれないが、だからこそ儚く、哀しく、そしてうつくしい。
69 町田ひらく『Alice Bland』☆☆☆★ コアマガジン ホットミルクコミックス 全1巻 ファンタジー風短編集
日本で、いや世界で唯一の抒情派ロリコン漫画家(ひとりいれば充分だ)町田ひらくのこれまた唯一の洋風短編集。そういった性的嗜好をもっていなくても、ファンタジー好きの諸氏なら楽しめることと思う。ついでに云えば、おそらく町田ひらくは日本で唯一の女性に薦められるロリコン漫画家でもある。いわゆるアニメ絵とは異質な独特な画がうつくしい。好学の方々は、おそらく『不思議の国のアリス』の作者ルイス・キャロルことチャールズ・ドジスンが、少女たちのコスプレ・ヌード写真を撮りためていたことをご存知だろう。それらの写真はファンタジーマニアに訴えかけてくる「なにか」、異界の空気とでもよぶべきものをそなえているのだが、町田ひらくの漫画の雰囲気もそれに近い。彼の作品は出来不出来の差が大きいし、常にたんなるポルノに堕す危険性をはらんでいるのだが――だからこそ、あやうく妖しくふしぎな魅力をそなえてもいる。
70 『ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター』☆☆☆☆ メディアワークス 電撃文庫 シリーズ既刊8編9巻 学園もの
ブギーポップシリーズ第2作目。今回は、ほんとうにベタベタに甘いラブストーリー。上遠野浩平はこの作品の数年後に発行されることになる『僕らは虚空に夢を視る』において厳しい現実(=強力な異星人との文字通りはてしない宇宙戦闘)への対比として、陳腐なほどありふれた現実(=おたがいに相手のことを思いながらも素直になれない幼馴染みの少女との関係)を置いたのだが、この小説などを読んでいると「上遠野さんてばけっこう本気でこの手のチープなラブコメが好きなのでは」と思えてくる。だがお話としての完成度と面白さは文句のつけようがない。「四月に降る雪」といううつくしい言葉をキーにして、前作よりさらに複雑な構造をもつ物語が描き出される。のちの作品への伏線としか思えない情報がちらほらと出ているのだが、いまだにそれは回収されていない。はたして水乃星透子の物語が語られる日はくるのだろうか――。
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