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71 『妹の匂い』☆☆☆ オークラ出版 OKAコミックス 全1巻 妹コミック短編集(そうとしか云いようがない)
変態漫画。ほんと、漫画を読んでいて生まれてはじめて「これは変態の世界だな」としみじみ思いましたね。SMだろうがレイプだろうが人体改造だろうが同性愛だろうが、すっかり平気になった僕だけど(もちろん、あくまで、フィクションのなかでの話だが)、この作品にだけは苦笑を禁じえない。なんというか、妄想がかたまって漫画の単行本が1冊できてしまった感じ。けっこうかわいらしい、人気のでそうな絵なんだけど、内容がこれではなぁ……。さすがについていける人は多くないだろう。特に凄まじいのは単行本なかほどに収められた短編(タイトルを忘れた)。一応は兄と妹の近親相姦ものなのだが、もう、なんか、ついていけない世界。わりにお耽美っぽく始まるなけど、結末は大爆笑もので、「お前、もっとはやく気づけよ」というかなんというか。うーん、うまく説明できない。あらゆる意味で妹幻想の究極を極めた1冊でしょう。まったく、なに考えているんだか。
72 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』☆☆☆☆ 早川書房 ハヤカワ文庫SF 全1巻 SF短編集
SF史上最高の天才作家ティプトリーの最も人気のある、そして最も読みやすい短編集。印象的なタイトルの表題作はSFマガジンの人気投票で短編部門1位にかがやいた名作中の名作である。個人用の宇宙船を使って家出した15歳の少女を主人公にして、愛と勇気と友情と自己犠牲を高らかに歌い上げている。歌い上げているのだが……勇気だの友情だのというテーマはあまりにもティプトリーらしくないような気もする。実際、表題作の雰囲気はほとんどハインラインあたりのジュヴナイルSFに近い。構成の完璧さはSF界でも随一のストーリーテラーであるハインラインをも上回るものがあるのだが、ティプトリーの凄み、あの神のごとき冷徹な視点はほとんど感じられない。だがそれは表面から隠されているというだけで、やはり本質はティプトリーである。「これが、たったひとつの冴えたやりかた」。なぜ15歳の少女にあのような決断ができたのだろう。感涙の名作である。
73 津田雅美『天使の棲む部屋』☆☆☆ 白泉社 花とゆめコミックス 全1巻 短編集
表題作は筆者が個人的に偏愛している短編。イギリスの産業革命期を舞台にしたちょっとディケンズかオー・ヘンリーみたいなラブストーリーなのだが、読むたびに心があたたまる。実はタイトルがダブル・ミーニングになっているのだけれど、その真相があかされるシーンがきわめて感動的。いや、漫画家はこういう話を書かなあかんね。津田雅美は、云うまでもなく『彼氏彼女の事情』が庵野秀明監督、GAINAX製作でアニメーション化されることによって有名になった作家である。だが、それより前に描かれたこの作品においてすでに彼女の特徴は見て取ることができる。津田の作品には、根本に言語に対する信頼がある。彼女の登場人物は自分の心境を言葉にして語ろうとするのだ。それはおそらく乱読の産物なのなのだろうが、漫画家として長所とも短所とも云えるその特徴が、この作品においてはうまくはたらいて感動を生み出しているようだ。
74 島田荘司『占星術殺人事件』☆☆☆☆★ 講談社 講談社文庫 全1巻 本格ミステリ
一部では日本本格ミステリ史上の最高傑作ともみなされる作品である。小説家としての島田荘司の技量がこのデヴュー作の時点ですでに卓絶したものであることがわかる。これほどの作品に対しては☆☆☆☆☆をつけるのが順当かもしれないが、筆者の好みで星半分減らした。御手洗潔のファンの方は当然もうすでに読んでおられるだろうが、まだ読んだことがないという方はこれから読んでファンになってほしい。ところで、この小説はある有名漫画にそのトリックを剽窃されたということでも有名である。しかし、逆説的だが、その漫画と比べるといかに島田が卓絶した技巧を誇っているかがよくわかる。同じトリックを使用しているにもかかわらず、面白さでは圧倒的に島田の作品のほうが上なのだ。日本中を舞台にした壮大なスケール、不条理としか思えない御手洗の奇行の数々、そして完璧な解決編――。これぞ本格ミステリ、と感嘆するよりほかにない。
75 清水玲子『月の子』☆☆☆☆★(その1) 白泉社 白泉社文庫 全8巻 現代ファンタジー
少女漫画史に残る名作。漫画という表現がどれほどうつくしくあれるものなのか、その限界に挑んだ作品であると思う。背景となるのはだれもが知っている人魚姫の伝説。これはあの哀しくも不条理な御伽噺を現代によみがえらせ、しかも完全に現代的なテーマに昇華してのけた、奇蹟の作品なのである。主人公は売れないダンサーのアートと、彼の家に転がり込んできた少年(ではないことが後に判明するのだが)ジミー。物語序盤はふたりの微笑ましい日常生活が描かれる。だが中盤で急展開があり、キーワードとしてチェルノブイリの名前があがってくる。かの発電所が爆発すれば、それを契機にして地球は滅びへの道を歩むことになるというのだ。爆発させようとする側と阻止しようとする側、双方で緊迫したドラマが演じられる――。なお、文庫版最終巻の巻末についている萩尾望都の解説はネタバレしまくりなので、衝撃のラストを自分の眼で見届けるまでは読んではいけない。
76 有栖川有栖『ロシア紅茶の謎』☆☆☆★ 講談社 講談社文庫 全1巻 本格ミステリ
有栖川有栖がエラリー・クイーンに挑む新国名シリーズの第1作。『46番目の密室』に続いて猫好きの犯罪学者火村英生の「フィールドワーク」が綴られている。表題作はきわめて上質なフーダニットミステリ。衆人注視のなかで毒殺された作曲家についての謎が解き明かされる。いかにして犯人は作曲家の呑んだロシア紅茶のなかにだれにも知られずに毒物を混入したのか。そのミステリについてありえたかもしれない可能性がひとつひとつ消されていき、最後にすべての仮説を上回る驚くべき真相があきらかになるという展開は、まさに本格ミステリの醍醐味。だが有栖川有栖の場合、その謎解きそのものというより、謎がとけたあと浮かび上がるふしぎな哀しさこそが本質であるかもしれない。――「私は忘れないよ、きみが命を賭けた最後のキスを」。すぐれた名探偵は事件を解決することはできても、ひとを救うことはできないのだ。
77 萩尾望都『残酷な神が支配する』☆☆☆☆☆(その1) 小学館 プチフラワーコミックス 既刊15巻 サスペンス
天才少女漫画家萩尾望都の最新にして究極の傑作。少女漫画のすべての歴史の現時点における終着点。数知れぬ名作や傑作はこの作品を産み落とすために存在した、とそう乱暴に断言したくなるほどの異常な傑作である。ただの傑作ではなく、異常な傑作と云ったことに注意してほしい。これは、ひまつぶしに読んですぐに忘れられるような本ではない。それどころか、読者によってはこの作品を読むことによって精神に深刻な傷を残すことになるだろう。しかし、それでもやはり読んでほしい。第1巻の1ページ目をめくったその瞬間から、あなたは出口のない迷宮の捕らわれ人になる――。主人公は、秀麗な容姿の少年ジェルミ。その外見を除いては特に特徴のない平凡な少年だ。これは、彼が「性的虐待」と「母子依存」という悪夢の森に捕らわれていく過程をノンフィクションめいた克明さで描いた物語である。読むことが辛い、しかし読まずにはいられない。そんな作品。
78 栗本薫『天狼星』☆☆☆☆ 講談社 講談社文庫 シリーズ全3巻 耽美ミステリ
うーん、☆☆☆☆はつけすぎかな、とも思うのだが、まぁ、いいや。趣味の点数だ。栗本薫渾身の耽美ミステリである。これまで『絃の聖域』事件、『優しい密室』事件、『鬼面の研究』事件(これはあの綾辻行人に大きな影響をあたえたそうだ)、そして哀しい『猫目石』事件などをあざやかに解決してきた名探偵伊集院大介の前に、最大最強の宿敵があらわれる。その名はシリウス。東京を恐怖でみたすべくあらわれた殺人鬼、闇の世界からの使者である。彼はこれまでいかなるおそるべき犯罪者たちに対しても理解と共感で接してきた伊集院大介にとって、はじめての「理解できない敵」だった。そしてこれまでまがりなりにも現代の本格ミステリとしての体裁を整えてきた名探偵伊集院大介シリーズは、シリウスの登場によって、あきらかに江戸川乱歩を意識した耽美不可思議な世界へと迷い込んでいく――。それにしても天野喜孝の表紙はうつくしい。
79 GAINAX&上田ハジメ『フリクリ』☆☆☆☆ 講談社 マガジンZコミックス 既刊1巻 ジャンル分類不可能(たぶんラブコメ)
評価は☆☆☆☆になっているが、ほんとうは☆☆☆☆☆つけたいくらいの傑作。どうしてひとつぶん星が減っているかと云うと、あまりにもマニアックじゃねぇか、と心の声が囁いたからだ。ふぅ、最近もう普通の漫画は読み飽きちまったぜ、どっかに俺を唸らせるようなとんでもない作品はないのか、という漫画マニアにこそ読んでもらいたい。一応GAINAX作の同名アニメのコミカライズ作品なのだが、原作に忠実に漫画化しようなどという殊勝な精神はこれっぽっちも感じられない(笑)。アニメのほうもかなり無茶苦茶な作品なのだが、漫画版のテンションはそれを上回るものがある。あらゆる予想を裏切る展開、読む側のテンポを微妙にずらす演出、どこへ暴走していくか想像もつかないキャラ、いずれも独創的きわまりなく、しかもそれらすべてにすこしだけセンチメンタルな味付けがなされている。『最終兵器彼女』がなければまちがいなく2000年の私的ベストだった作品。
80 大原まり子『未来視たち』☆☆☆★ 早川書房 早川文庫JA 全1巻 超能力SF
未来視たち。それは恐るべき人外の能力をもつ超能力者たちのことを指す言葉。そして全宇宙で最強の超能力者の家系が、すなわちシノハラ家とコザイ家である。この呪われた遺伝子をもつふたつの家系は、これまでたがいに対立し憎しみあいながら、歴史をつくってきた。だがシノハラ家の青年シンクは、コザイ家の自閉症の少女とシンクロし、彼女を攫ってはてしない逃亡の旅にでた! これはシンクの成長とスポイルの物語である。のちに『ハイブリッド・チャイルド』において完成する大原まり子の未来史の一部でもあるが、彼女の感性が最も鋭く尖っていた頃の作品であるだけに、単なる歴史の一部として収まりきらない激しさがある。主人公をつとめる気弱な青年と稚い少女のコンビは、どこか古橋秀之の『ブラッドジャケット』や、リュック・ベッソンの『レオン』を思わせるものがあるが、なにか共通するものをもつイメージなのだろうか。
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