81 星里もちる『夢かもしんない』☆☆☆☆ 小学館 ビッグコミックス 全5巻 現代もの

現在までの星里作品のなかで最高の完成度を誇る一作。連載漫画でこれほど隙のないプロットに出遭うことは滅多にない。ある優秀なサラリーマンの男のもとにひとりの幽霊の少女があらわれるのがストーリーの発端。やがてその少女は主人公が少年時代にファンだったアイドルであることがあきらかになり、彼は彼女とともに喪った少年時代の記憶をすこしずつ取り戻していく。そしてそれは次第に物分りのいいただの大人になってしまった自分への疑問と反発を生み出す。「大人であること」がさまざまな犠牲をともなってしか成立しないのだとしたら、ひとはいったいなぜなんのために大人になろうとするのか? それがこの作品のテーマである。主人公が初恋と少年時代に別れを告げて大人としての自分を受け入れ、新たな道へ歩み出す感動的なラストシーンをぜひ見てほしい。多くの人にとって、この漫画の物語は他人事ではないはずである。

82 大原まり子『ハイブリッド・チャイルド』☆☆☆☆ 早川書房 早川文庫JA 全1巻 SF

大原まり子の長編最高傑作にして代表作、と、世間では云われている作品。個人的には『エイリアン刑事(デカ)』および『エイリアン刑事2』がぶっちぎりの最高なのだが、これはあまりにも個人的なベストなので、やっぱり一般的にみたらこれがいちばんだろうな。デヴュー作『一人で歩いていった猫』から続く大原まり子未来史の決定版でもあるし(もっとも時間的には短編集『メンタル・フィメール』にこれの後日談にあたる話が載っているが)。3篇の作品が収録されているが、すべて「ヨナ」という名をもつ逃亡した超生物兵器が主人公である。ほかの生命の遺伝子を入手することによっていかなる生物の姿をとることもできる「彼女」は、自我にめざめて軍から逃亡し、さまざまな混乱を巻き起こしながら生き続ける。彼女の前に広がるのは爛熟した文化をもつ退廃の宇宙。いかなる結末がヨナを待ちうけいるのか、だれも知らない……。

83 一條和春『月とノスタルヂヤ』☆☆☆★ ラポート ラポートコミックス 全1巻 短編集

アマチュアリズム。通常それは否定されるべきものである。社会のどの場面においてもプロフェッショナルな仕事こそが望まれるものだからだ。だがエンターテインメントの業界においては、固定観念にとらわれたプロの仕事を、技術的には未熟なアマチュアが超越していくことがないわけではない。その希少な例のひとつがこの『月とノスタルヂヤ』である。漫画や小説を読みなれた人ならば照れくささを感じるほど文学的な香気がこの作品には漂っている。あえて云うなら、これは文学少女が描いた漫画である。表題作にはまさに明治あたりの文学作品のコミカライズのような空気が漂っているのだが、注目すべきは巻末の中篇「願わくは花のもとにて」。隻腕の天才剣士を通して幕末動乱の世に生きた青年たちの青春が描かれているのだが、登場人物に対する作者の愛が感じられる、哀しくはあるが、さわやかな物語だ。

84 菊地秀行『夜叉姫伝』☆☆☆☆ 祥伝社 祥伝社文庫 全4巻 伝奇アクション

自他ともに認める〈魔界都市〉シリーズの最高傑作。そして日本吸血鬼小説史上最大最高クラスの作品である。これに匹敵するのは菊地自身がいまも描きつづけている〈吸血鬼ハンター〉シリーズと、小野不由美の『屍鬼』しかないが、『屍鬼』が完璧としか云いようのないプロットをもつのに対し、この作品は暴走また暴走を繰り返す展開で読者の先読みを赦さない。というか、あとがきを見る限り作者自身ですらどこへどういくものかまったくわかっていなかったようである。それでも傑作ができるんだから小説って面白いですね。さて、物語の主人公は云うまでもなく〈新宿〉を代表するふたりの魔人――秋せつらとドクター・メフィスト。敵は4000年の歳月を生きてきた中国の吸血鬼たちだ。特にせつらやメフィストさえも上回るという美貌をもつ敵の首魁、名なしの「美姫」の存在感はすさまじい。不老不死の彼女がいかにして倒されるのか。想像を超える結末が待っている。

85 高河ゆん『アーシアン』☆☆☆☆(その1) シリーズ既刊5巻 小学館 WINGSコミックス SF

僕がはじめて触れたヤオイ作品。はじめて読んだとき(小学生か中学生だったと思う)は登場人物が男なのか女なのかよくわからなくて困惑したものである(^^ゞ。数十億年前から地球を監視している天使たちの物語なのだが、かれらは発情期において同性にしか肉欲を感じなくなってしまったために滅びに瀕しているというその設定がまず凄まじい。主人公は地球で人類の行動を監視している天使のコンビ、ちはやと影艶。ふたりはさまざまな人間たちと関わり合いながら人間の哀しみ、人間の喜び、人間の激情に触れ、地球と人間に共感していく。そして親地球家がかかるという謎の不治の病「黒色ガン」に罹患した天使セラフィムの地球への亡命を契機としてちはやと影艶の平和で幸福な関係は崩れ去り、壮絶なクライマックスへむけてすべてが動き出す。問題は感動のラストがいまだ単行本に収録されていないこと。いったいどうなっているんだ。まったく。

86 久美沙織『ドラゴンファームの子供たち』☆☆☆ プランニングハウス ファンタジーの森 シリーズ全3篇5巻 異世界ファンタジー

ドラゴンファーム三部作完結編。久美沙織が小説家としての技量をフルに駆使した作品で、卓絶した構成力は上下巻にわたる本の分厚さを気にさせない。にもかかわらず僕の評価が☆☆☆にとどまっているのは、ひとえにヒロインのディーディ−の魅力が減じられているように感じられるからだ。「旦那を信じて家でかれの帰りを待つ」とか、「云いたいことがあってもぐっとこらえて笑顔で送り出す」とか、行動がまったく彼女らしくない。ディーディーの魅力は自由で奔放でやりたいことだけをやりたいだけやって自分でその責任をとる、その潔さにあったはずなのに、ここにいるのはただのひとりの良き妻である。そもそもデュレント牧場にはいまや使用人がたくさんいるのだから、家事だの育児だの放り出して夫にくっついて冒険しても全くかまわないはずなのだ。なぜ久美沙織がこのような描写をしたのか不思議なのだが、あるいは、なにか僕にはわからない目論見があるのだろうか。

87 安達哲『キラキラ!』☆☆☆☆☆ 講談社 少年マガジンKC 全8巻 青春漫画

天才漫画家安達哲の代表作。おそらく少年マガジン史上最もヤバイ漫画であると思われる。いや、よく考えてみれば『アシュラ』があるか。『デビルマン』もマガジンだったし。まぁ、そんなことはどうでもいいのだが、とにかくヤバくて痛い漫画である。読むたびに胸がずきずきして、口先で大言壮語を並べ立てるだけで何もしない自分を責められているような気分になる。真の傑作がいつもそうであるように、この作品も、読者が部外者として安穏な気分でいることを赦さないのだ。ただし、1巻、2巻はわりと普通の漫画。加速的に空気が鋭く変わっていくのは3,4巻あたりからである。そこからはほんとうに青春漫画としてのあらゆるタブーを侵犯している。圧巻。……どんな恋愛もいつかは終わる。どんな青年もいつかは年老いていく。社会に呑みこまれて変わっていく。だけど、いや、だからこそ、僕らは「あの時代(とき)を忘れない」。すべてがキラキラしていたあのときを。

88 『吸血鬼ハンターA 風立ちて゛D゛』☆☆☆☆★ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 シリーズ既刊12篇(20編)外伝1巻 伝奇アクション

『゛D゛――聖魔遍歴』と並ぶシリーズ中の個人的最高傑作。哀しいラストが多いこのシリーズのなかでもひときわ哀しくそしてさわやかなラストが印象的な作品である。この巻でシリーズ全体の空気はさだまり、ベストセラーシリーズとなることが決定した。さて、今回の物語を特徴付けているのは人間性の醜悪に対するはてしない憎悪とでも呼ぶべきものである。ひとの血を啜る吸血鬼「貴族」はなるほど邪悪であるかもしれぬ。だが、かくも愚劣な人間どもはそれよりいくらかでもましな存在であるのか? のちにシリーズを通して問いかけられることのになる最大のテーマは、この巻ではじめて登場したのだ。儚く散っていく希望のむなしさ、人間たちへの怒りの激しさは、永井豪『デビルマン』やM・ムアコック『永遠のチャンピオン』にも比肩する。「成功例はただひとつ」。絶望的な状況のなかに残されたたったひとつの希望の名前を、あなたはすでに知っているはずだ。

89 樹なつみ『OZ』☆☆☆☆(その1) 白泉社 ジェッツコミックス 全4巻 SF

『花咲ける青少年』と並ぶ樹なつみの最高傑作にして現代SFの収穫のひとつ。題名にある「OZ」とは、核戦争によって荒廃し戦争が続く世界で噂される理想の科学都市のことを指す。傭兵である主人公ムトーはそのOZに憧れ、任務を逸脱してOZを追い求める。OZから招かれたフェリシアという少女とともに。彼女を迎えにきた超高性能のアンドロイドは、その時代の社会の常識をはるかに超越したOZの科学力の証明であるかと思われた。だが、しかし――。「黄色い煉瓦の道」のかわりに、黄金の砂漠を。臆病なライオンのかわりに、ひとに心を開けない傭兵を。ブリキのきこりのかわりに、心をもつアンドロイドを。そしてカンザスの少女ドロシーのかわりに、天才少女科学者フェリシアを配したSF版『オズの魔法使い』。だが僕はフェリシアの姉のヴィアンカというキャラが好きである。ただの脇役なのだが、なぜかものすごく好きである。悪いか。

90 『月の影、影の道』☆☆☆★ 講談社 講談社文庫 シリーズ既刊5篇7巻 異世界ファンタジー

どうしてこんなに評価が低いのだ、とファンの方はお怒りになるかもしれない。現代日本で最も高い評価をえるエンターテインメント作家小野不由美の代表作〈十ニ国記〉の開幕作であるからには、☆☆☆☆くらいはつけるべきかと思ったが、やはりこの作品の段階ではまだ文体に生硬さがあり、また表現にも甘さが残っていると判断してこの評価とした。いまではもうあきれるほどに完璧な作風になってしまわれたが……。一流作家は進歩が早いものなのである。学習能力が高いから。まぁ、それはともかく、この物語の主人公は平凡な高校生の少女で、物語は彼女が麒麟という謎の生き物に連れられて異世界へやってくるところから始まる。いかにも平凡な冒頭。ところが、それからのち彼女が乗り越えねばならない試練の厳しさはほかに類を見ない。彼女は深刻な人間不信にまで追いこまれ、そして……。感動的な結末までどうか目を離さず見守ってほしい。



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