「それはひとときの幸福な夢――高屋奈月『フルーツバスケット』」

海燕です。つーわけで書評第3回っす。今回とりあげる作品はもりしげ『子供の森』――はさすがに倫理的道徳的人道的にやばいので(勇気のある人は読んでみましょう。日本漫画史上最凶最悪のエロ漫画です。狂気を感じます)、ごく穏便に高屋奈月『フルーツバスケット』でいきましょう。心が荒れ果てるような酸鼻な話ばっかり読んでるとダメ人間になっちゃうぞ、と妖精さんが僕の耳に囁きかけていることでもあるし(もう思いっきりダメになってるじゃん)。ってこの手のセルフつっこみもいいかげん飽きたか。

ご存知のかたも多いでしょうが、フルバは少女漫画です。それも「花とゆめ」好評連載中のバリバリの王道少女漫画。登場人物はほとんど美形だし、王子さま呼ばわりされる男の子がでてきちゃうし、男性キャラでも登場するときは当然のごとく花しょってくれています。読む気うせた? まあそげなこと云わんと、読んでみてください。面白いんだから。個人的には2000年の漫画界でベスト3には入ります。『最終兵器彼女』がなかったならこれがトップだったかも。いま最も読むのが楽しい漫画だと云っていいでしょう。

主人公は高校1年生の本田透くん(単行本4巻で2年になる)。女の子です。ヒロインらしくない平凡な名前ですが、この子がねー、いい子なんですよ、だんな。単行本1巻の冒頭、高1にして事故で母親を喪って身寄りがなくなった彼女は、親戚中をたらいまわしにされたあげく、居候することになった祖父の家まで追い出されてしまい、ひとり森のなかでテント暮らし(!)を始めることになります。年頃の女の子がやっていいことではありませんね。当然のごとく彼女はトラブルに見舞われ、学校で「王子」と綽名される草摩由希の家に居候することになります。ところが、かれの家系にはとんでもない秘密があって――というのが第1話のあらすじ。ここから愉快で、ちょっとだけもの悲しい物語が展開するわけです。

この漫画を特徴付けているのはなんといっても主人公の透くんのキャラクターでしょう。彼女はひたすらに健気で、純真で、綺麗な心の持ち主です。これでもかと襲いかかってくる逆境と不幸にもくじけず、めげず、いつも笑顔をわすれません。で、これは特筆すべきことだと思うんだけど、これだけいい子なのにすこしも嫌味じゃないんですね。こないだ花ゆめ誌上でやっていたフルバ人気投票では2位をとったとのこと。少女漫画で主人公の女の子がこれだけ人気を集めるのはけっこう画期的なことかもしれない。なにしろ美形で王子さまの草摩由希より上なのだ。

ここまで書いていて気がついたんだけど、健気で身寄りのない少女がひたすら頑張ることによって本人とまわりの人間が同時に癒されていくこの構図って、川原泉の作品に近いような気がする。ほのぼのとギャグと感動という三つの要素が分かちがたく結びついた川原泉の作風は少女漫画史上でも独特のもので、僕の知る限り追随者はほとんどいないんだけど、高屋奈月の漫画の世界観はどこかそれと共通したものを感じさせます。あかるくあればあるほどなぜか哀しい物語。声高にトラウマを叫んだりしない、自分が深く傷ついていることに気付きすらしない人々のお話。それは「アダルトチルドレン」であることに気恥ずかしさを感じる人間たちの世界なのかもしれません。

物語は現在進行形。いまならまだリアルタイムで読むのに間に合います。僕はいきなり5巻から買い始めて杞紗萌えーとか云っている邪道な読者ですが、当然、ちゃんと1巻から読んで透くんの魅力にめろめろになったり由希の笑顔に悲鳴をあげたりするのが正しい読み方でしょう。たぶん7巻に収録されることになるだろう透くんの母親今日子さんのエピソードは必見のかっこよさだからそこから読むのもありかも。とにかく読んでいるとしあわせになってしまうお話なのでした。



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