「時は切ないラブソングを奏でる――清水玲子『MAGIC』」
毎度おなじみ海燕です。書評シリーズ早くも第5回目がやってきました。ていうか第2回から第5回までまとめて送っているから読む側は一気に読んでいるかもしれないんだけど。まあいいじゃん(こればっか)。
で、今回生贄に選んだのは清水玲子『MAGIC』。作品の長編化が進む最近の漫画界ではめずらしく130ページ弱でコンパクトにまとまったそれはそれは綺麗な中篇です。筆者はこの話を読んだとき感動のあまり雄叫びをあげました(実話)。少女漫画界の鬼才清水玲子の作劇術の巧妙さとうつくしい絵を100円玉4枚で味わえるんだから安すぎでしょ。未読の人はいますぐ書店へ行って花とゆめコミックスの棚をあさるべきですね。
『MAGIC』の舞台背景は人類の叡智のおよばぬ神秘の惑星サシャ。数年に一度磁気嵐によって閉ざされ宇宙の孤島となるこの星で、少女モデル花七の写真撮影がおこなわれる。まるで少年のような容貌の花七がモデルとして選ばれた理由はひとつ。彼女が宇宙一うつくしいと云われた伝説のモデルKANAの血を継いでいるから。そして彼女の義父でありかつてKANAの恋人であった遠留も、次第に彼女に惹かれていくおのれの感情を否定しながらこの撮影行に同行していた。かれには花七を愛してはならない理由があったのだ。やがて予想外の磁気嵐がサシャに訪れ、閉ざされた世界で花七と遠留の気持ちは近付いていく。だが、その果てには、だれも想像すらできないような衝撃の事実とあまりにも残酷な結末が待っているのだった――。
そう、清水玲子はこれまでも漫画史上に残る感動的な結末をいくつも描いてきた作家です。少女漫画史が永遠に記憶するだろう名作『月の子』におけるあの鳥肌のたつような結末も、異常きわまる設定のカニバリズムSF『22××』の非情で鮮やかな結末も、そして漫画における作劇技巧の極限を極めた傑作短編『秘密―トップシークレット―』の意外かつ感動的な結末も、むろん素晴らしいものでしたが、静かなもの哀しさという点ではこの作品のそれにまさるものはないでしょう。うつくしい――しかし哀しすぎるエンディング。
少女漫画は、その歴史のなかでいくつもの魅力的な恋物語を描いてきました。しかし、僕は漫画界広しと云えども清水玲子ほどロマンティックなラブストーリーを描く作家はほかにいないと思います。彼女の描き出す物語は決してあまくはありません。否、漫画業界全体でも彼女ほど非情な作風の作家は多くないとすら云えるかもしれません。しかし、それでも清水玲子の物語は愛の物語であり、ひとがひとを愛することの意味を高らかに歌い上げるのです。
これは「時」の物語。そして人が決してあらがうことのできない「時」の流れをも越えて愛しあおうとするひと組の恋人たちの物語です。泣けます。はっきりいって1800円+電車
代を払ってハリウッド制の安手の恋愛映画を見にいくよりは、この漫画を買うほうがずっとお得なので、最近のラブストーリーはつまらいないと思っているかたはぜひご購入ください。
巻末に収められた短編『SILeNT』もかなりのオススメ。これがまた泣ける話なんだ。清水玲子はほんとに短編がうまい! 現代の漫画家で彼女に匹敵する構成力をもっているのは萩尾望都くらいなんじゃないかな。払った金額のもとはとれる作品ですぜ。確実に。
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