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「都市のみる夢――細野不二彦『東京探偵団』」
細野不二彦は多芸な漫画家だ。かれの作風はおよそ漫画家として考えられるかぎり多岐におよんでいる。恐怖と恍惚のいりまじった世界を描く一級のボクシング漫画『太郎』、芸術界の裏側を描き出すアート漫画『ギャラリーフェイク』、ストーカーと女刑事の虚々実々のやりとりを活写したサスペンス漫画『S.O.S』、エロスと暴力の交錯するオカルト漫画『ジャッジ』、プロフェッショナル野球漫画の傑作『愛しのバットマン』、そしてアニメ化された忍者漫画『さすがの猿飛』。
どんな漫画でも描くし、どんな漫画を描いても面白い。それが細野不二彦なのである。だが僕がこれから紹介するのは、かれのその多様な作品群のなかにあってすらひときわ異色な傑作だ。その名も『東京探偵団』。ミステリ作家綾辻行人も絶賛の紙上奇想博覧会である。
物語の舞台は云うまでもなく東京。ただし現代の東京ではない。いまとなっては仄かな懐かしさすら漂う昭和の首都東京である。主人公となるのは日本に十枚とない万能のスーパーカード、C・Jカードをもつ三人の少年少女たち。日本最大の巨大財閥の資金を後ろ盾に、かれらは浪費の限りをつくした冒険を開始する。立ちふさがるのは巨大にして難解な謎。そして劇場犯罪の巨匠たる怪盗黒男爵(バロン・ブラック)。
たとえば、東京タワーに寄生した巨大な蛾。たとえば、首都脱出を試みる山手線の列車たち。たとえば、新宿摩天楼に出現しては消える謎のビル。たとえば、夜な夜な国鉄の地下鉄路線に出没する幽霊列車。ありふれた現実を破壊する魅力的なミステリの数々を、東京探偵団(シティ・ジャッカー)たちは明快な論理と膨大な資金で打ち砕いていく。
かれらのかぎりない蕩尽は、今日からみれば、80年代経済成長時代の傲慢とみえるかもしれない。しかし、シティ・ジャッカーたちの行動は、たとえばバブルに奢った会社経営者たちがゴッホやモディリアーニの絵を買いあさったこととは根本的に異なっている。それがなんの役にもたたない「無駄遣い」だからである。かれらは、アイス好きの猫一匹を探すためにアイスクリーム専門店ビルをつくる。依頼人がスキー場で出会った女性を捜すために、日本武道館を雪で埋め立てて即席スキー場をつくりだす。さらには、幽霊ビルの秘密を暴くために想像を絶する「あるもの」を建造しさえする。
かれらの前に立ちふさがる事件は、すべて東京という都市のみた夢だ。ありえない、ありえるはずのない美しい悪夢。シティ・ジャッカーの3人の構成員は、全員が年端もいかぬ子供である。かれらの過去や家族構成ははだれも知らない。3人は、ただ、都市のみる夢を共有することによってのみ結びつけられているのだ。そしてその夢のなかで、東京は、東京ならぬ東京となって浮上するのだ。終わりのない夢……。この作品を読むとき、読者は、怪奇幻想を愛したかの大乱歩が残した言葉を思い出すことだろう。
「うつし世は夢。夜の夢こそまこと」
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