『たった一つの「文体」と七色の「ペンネーム」を使い分け」(注1)る小説家「鷹見一幸」を、わたしなりの一言で表すとしたら「技巧派」「精密な書き手」になる。鷹見さんの小説は「時空…」しか読んでいないけど、作品の完成度は別にして、かなり細かくを作りこんだ作品でした。
ここで間違えてほしくないのが、「物語」の完成度じゃなく、わたしの関心は技巧的なその細部・文体のつくり・構造にあることです。
文章はたった一行でも無限の広がりを持つ。俳句や短歌、標語の例を挙げなくてもそれはわかると思う。その文章がいくつも集まり、体を成したのが「文体」である。
読み終わった後感想を書くために振り返ったとき、一番目を引いたのは鷹見さんの「表現技術上に見られる特徴を特徴」(注2)つまり狭義の意味での「文体」です。
「時空…」の面白さについては、独断と偏見、好みの差があるから普遍なことは言えないので、「超強力新人」と言わしめた文体について書きたい。
一番解かりやすい部分は、ラスト。主人公がパラレルワールドから帰るシーン(注3)。読んでいていて違和感が生じなかった。
違う、違和感が生じてもいい場面なのに、なんの違和感もなかった。
その前後を要約すると、人間味を帯びた狂信者たちとの戦闘が終わったことでお役目ご免となった主人公は、パラレルワールドから元の世界に還ってしまう。
その場面中、栗野とちょっとした屋上でのやり取りがあっただけで、幸水はパラレルワールドに残る選択肢を考えることなく、「あっさり」と元の日常世界に還ってしまった。パラレルワールドの人たちにしてみれば、寂しい話になる。
だけどそれは、「元の世界の香織と約束したから」。
この理由は、確かに成り立つ。だけど、パラレルワールドでは、ウイルスのまん延で崩壊した世界は復興していく だけど解決しなければいけない問題は山ほどある。それを地域レベルで考えれば、あれだけ活躍した幸水は必要な人材である。
なのにあっさりと還ってしまった。
だけどここで幸水の行動を「ひどい人だね。そんな奴だとは思わなかった。幻滅ぅ」と非難するつもりはない。
問題の焦点は、パラレルワールドに残るかどうかもう少し悩んでもうよさそうなのに、まったくそんなそぶりを見せていないことに「なんの違和感もなかった」ことです。
その答えが、鷹見さんの文体にある。
まだパラレルワールドに行く前に幸水は「(前略)たまには笑ってみろ」(注4)と香織に言う場面がある。
これが後になって、パラレルワールドの香織が笑う(表情を表す)ことが救いになる。つまりさっきの台詞が奇妙に繋がっている。
また、
「(前略)子どもってっさ可能性のかたまりみたいなもんだもの」
「善人になるとは限らないぞ。凶悪な犯罪者になるかもしれないんだ(後略)」
なんでもない香織とのやり取りが、「選ばれし者」たちの幼児性を持った狂信者につながっている。
こんな例えは本文中探せば、ざくざく出てくる。「肉じゃが」と「乾ぴょう」とか。一つ一つがあまりに些細なことなので、伏線というとオーバーになってしまう。
だけど、後の出来事が前に出てきた行為に裏付けされているのは、読み手に安定感を与えている。これを繰り返すことで、「香織に帰ると言った以上、幸水は必ず還る」という印象が生まれる。
鷹見さんの実力(超強力新人たる所以)はここにある。最初にちりばめられた伏線(にもならないもの)を作ることで、登場人物の行動が予測不能なはずなのに規律からはずれない予定調和を保つことができる。
読者に安定感を与えることができると前に書いたけど、考えてみててください。
少々異質な行動をとってもそれが許される状況を書き描けるとする。その技術をうまーく使えば、もっと重っ苦しく難解しいテーマ、「死」や「救い」、「原罪」、「犯罪」「罪の意識」なんかを扱ったとしても、常人には理解できない人物を書いたとしても、不信を抱くことなく読み進めることができる。
もちろんこれは両刃の剣で、使いようによっては作品自体に広がりがない小さくまとまったそつのない作品になってしまうことだってある。
本人さんは気づいていないのか、得意技として「時空…」に使っているのかはわかないけど、この文体は武器になる。
カチッと音がするくらい文体にハマった鷹見さんの作品に期待します。
注釈
(1)「電撃hp」 メディアワークス 2000年発行 418p プロフィールより一部引用
(2)「新明解国語辞典 第四版」 (株)三省堂 1991年発行 1157p 「文体」より一部引用
(3)実際のラストは第二三章「そしてまた日常」だけど、その前の第二二章「帰還」と最終章の「そして また日常」は、エピローグといった感が強く、ストーリとしてのラストはその前の第二一章「終末の続き」と考えても差し支えない。
それだと第五章「僕の家」までの「部室」「公園」「暗室」「化学部」は作者の意図を含めた長い長いプロローグである。青春モノと思わせるために不必要に長く日常生活を書き、パラレルワールドの深刻さをイメージつけている。
(4)前掲書 334p(第二章「公園」)より引用
(5)前掲書 (335p第二章公園)より引用
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